
「将来の夢は?」と聞かれて黙ってしまう子を、私たちは会場で何度も見ています。困っているのは子どもだけではありません。付き添いの保護者の方が、代わりに答えを探して焦ってしまう場面のほうが、実は多いくらいです。
この状態を「まだ好きなことが見つかっていない」と説明するのは、たぶん少しずれています。会場で観察していると、好きなものがない子より、好きなものを「夢」として言える形に翻訳できない子のほうがずっと多いからです。翻訳の材料になるのは、たいていその子が見たことのある職業の数です。
この記事では、好きなことが見つからないという状態を分解して、大人が差し出せるものを整理します。結論を先に書くと、差し出すべきなのは選択肢のリストではなく、選ぶ前の材料でした。夢を持たせようとする働きかけは、私たちが見てきた範囲ではあまり機能していません。
この記事の要点
- 「好きなことがない」の多くは、選択肢を知らない状態か、言葉にできない状態のどちらかです
- 地域にその仕事をしている大人がいないと、子どもはその進路を最初から候補から外します
- 好きを探させる働きかけは逆効果になりやすく、先に材料を増やすほうが動きました
- 家でできる4つの手順と、無理に探させなくていい場合の条件を最後にまとめています
「好きなことがない」は、たいてい3つのどれか
受付や体験後の雑談で聞いていくと、同じ言葉の中身がかなり違うことが分かります。私たちは、おおむね次の3つに分けて考えるようになりました。
この3つで対処が変わります。1番目に必要なのは材料、2番目に必要なのは認めること、3番目に必要なのは何もしないことです。ところが家庭で起きやすいのは、どの状態にも同じ働きかけ(好きなことを探させる)をしてしまうことだと思います。
地域に手本がいないと、進路は静かに消える
私たちが活動を始めた理由がここにあります。地域によっては、ITで働いている大人に子どもが出会う機会がほとんどありません。学校の先生、お店の人、医療や介護の方には日常的に会いますが、モノを設計している人や、機械を動かしている人には会わない。
すると何が起きるか。その仕事が「なりたくない」ではなく「自分とは関係ない」として分類されます。嫌われるのではなく、視界に入らないまま候補から外れる。これは選択の結果ではないので、本人にも自覚がありません。

「好きを探しなさい」が逆に効かない理由
好きなことを見つけよう、という働きかけは善意で行われます。ただ、受け取る側には別の意味で届くことがあります。「今のあなたには何もない」という評価として届く、という意味です。
現場から
体験後に「これが将来につながるかもね」と保護者の方が言った瞬間、それまで熱中していた子の手が止まる場面を何度か見ています。楽しんでいた時間が、急に評価の対象になったからだと思います。私たちはスタッフにも、その日のうちに将来の話をしないようお願いしています。
もうひとつ、探させる働きかけには構造的な問題があります。探す対象を子どもが持っていないなら、探しようがありません。材料がないところで探索を促しても、疲れるだけで終わります。順番としては、材料を増やすほうが先です。
差し出せるのは、職業名ではなく「その人の一日」
では何を渡すか。私たちが会場でやっているのは、職業の名前を教えることではなく、その仕事をしている人が実際に何をしているかを見せることです。名前だけを渡しても、子どもの中では抽象的なままで残りません。
たとえば3Dプリンターを動かしているスタッフの隣に立って、うまくいかずにやり直している場面まで見た子は、その後の質問が具体的になります。「どうやってなるの」ではなく「その形はどうやって決めたの」と聞いてくる。職業ではなく作業を見た子のほうが、自分に引き寄せて考えていました。
学年によって、渡す材料の粒度が変わる
私たちが会うのは未就学から中学生までで、中心は小学1〜4年生です。この幅で見ていると、同じ材料でも受け取られ方がかなり違います。低学年の子は、職業という枠をまだ持っていません。持っているのは「その道具が面白いかどうか」だけです。だから低学年には、仕事の説明ではなく道具そのものを渡すほうが確実に届きます。
高学年になると、自分と他人を比べる視点が入ってきます。ここで「向いていないかもしれない」という判断が急に増えます。実際には数十分触っただけなのに、その場で結論を出してしまう。だから高学年には、うまい人の完成品より、うまい人が詰まっている場面を見せるようにしています。
中学生は、現実的な条件を気にし始めます。学校、資格、収入。ここで大人が曖昧に濁すと、興味そのものが引っ込むことがあります。分からないことは分からないと言ったうえで、調べ方を一緒に見るほうが、結果的に続きました。
学年ごとに見ているところ
低学年は「触った時間の長さ」、高学年は「途中でやり直したか」、中学生は「質問が具体的になったか」を見ています。どの学年でも、その日のうちに将来につなげる話はしません。持ち帰ってもらうのは判断ではなく材料だからです。
親が自分の仕事を話すときに、つまずきやすいところ
材料を増やす手段として、いちばん手軽で、いちばん効くのは、親自身の仕事の話です。ただし、これには失敗しやすい形があります。よくあるのが、仕事の意義や大変さから話し始めてしまうことです。
子どもが反応するのは、たいてい具体的な作業のほうでした。何をどう決めているのか、今日どこで詰まったのか、誰に確認したのか。立派な話ほど、子どもは自分と切り離して聞きます。会場で保護者の方が仕事の愚痴に近い話をされたとき、隣の子がいちばん食いついていた、ということが何度もありました。
もうひとつ、自分の仕事を「面白くないから参考にならない」と省いてしまう方も多いのですが、これはもったいないと思っています。子どもにとっては、面白いかどうかより、そういう仕事が世の中に存在すると知ることのほうが先です。候補の数が増えることに意味があります。
判断を1枚に落とす
家庭で何をするかを決めるための表です。まず、お子さんがどの状態に近いかを見てください。
| 子どもの様子 | おそらくの状態 | やってみること | やらないほうがいいこと |
|---|---|---|---|
| 質問されると黙る | 選択肢を知らない | 大人の作業を見る機会をつくる | 職業のリストを見せて選ばせる |
| 「ゲーム」とだけ答える | 言えない | 何が面白いのかを具体的に聞く | それは夢じゃないと訂正する |
| いろいろ挙げて決めない | 決めたくない | そのままにする | ひとつに絞らせる |
| 去年と違うことを言う | 健全に更新中 | 変わったことを面白がる | 前と違うと指摘する |
| 親の期待を答えてくる | 正解を探している | 正解がない質問に変える | その答えを褒める |
うまくいかなかったこと
私たちの失敗も書きます。ある回で、体験の最後に「将来なりたいもの」を書いてもらうカードを配ったことがあります。狙いは、体験と進路をつなげることでした。
結果はよくありませんでした。書けない子が明らかに落ち込み、その日いちばん集中していた子ほど手が止まりました。今は同じ場面で「今日いちばん面白かったこと」を書いてもらう形に変えています。未来を書かせると止まる子が、今日のことなら全員書けました。
気をつけていること
職業体験のような場では、大人が良かれと思って「向いてるかもね」と言いがちです。私たちも過去に言っていました。ただ、その一言が本人の中で期待に変わり、次の失敗を怖がらせることがあります。今は、その日の観察をそのまま伝えるだけにしています。「40分ずっと座ってたね」で十分でした。
「今は探さなくていい」ケース
次のどれかに当てはまるなら、好きなことを探す働きかけは急がなくていい、というのが私たちの見方です。
- 没頭しているものがすでにある(それが将来につながるかどうかは、今は関係ありません)
- 興味の対象が数か月ごとに変わっている(材料が増えている最中です)
- 好きなことを聞かれること自体を嫌がっている
- 学年が低く、そもそも出会った職業の数が少ない
家でできる4つの手順
特別な機会は必要ありません。材料を増やすことは、日常の中でもできます。
- 大人の仕事の「作業」を話す肩書きではなく、今日何をしたかを話します。うまくいかなかった話のほうが届きます。
- 身の回りのものが誰かの仕事だと気づける会話をする信号、看板、アプリ。誰かが決めた形だ、と分かるだけで候補が増えます。
- 好きなことではなく、面白かったことを聞く将来の話にしないのがコツです。答えが出やすくなります。
- 一度だけ、外の大人に会う機会をつくる親以外の大人が働いている姿は、家庭の中では見せられない材料です。
私たちがやっているのは、材料を増やす一日です
デジタルキッズクラブは教室を持っていません。イベント(フェス)と、学校や施設への出張、オンラインのワークショップという形で、愛媛・東京・千葉・愛知で活動してきました。継続を前提にしていないので、一日で何を渡せるかを考え続けています。
その答えが、技術ではなく材料でした。3Dモデリングと3Dプリンターのブースでは、作品よりも、機械が動いているところを見て質問する時間を大事にしています。オンラインの動画制作コースも同じで、完成度より、作る人が何を決めているのかを知ってもらう構成にしています。

当日おねがいしていること/やらなくていいこと
将来の話は、その日はしないでください。これがいちばんのお願いです。体験が評価の場になった瞬間に、手が止まる子がいます。感想も「上手だね」より「ずっとやってたね」のほうが残ります。
おねがいしていること
小学4年生以下は大人の付き添いが必須です。付き添いは子ども1名につき大人1名まで無料で、大人が追加になる場合は500円をいただいています。うまくいかず止まっている時間があっても、そのまま待っていただけると助かります。
よくある質問
Q. 子どもが将来の夢を聞かれても答えられません。心配したほうがいいですか。
A. 会場で見ているかぎり、答えられない子の多くは、まだ出会った職業の数が少ないだけでした。まずは大人が実際に何をしているかを見る機会を増やすほうが、夢を考えさせるより先に効きます。
Q. 「ゲームが好き」しか言いません。
A. 何が面白いのかを具体的に聞いてみてください。世界観なのか、対戦なのか、作ることなのかで、材料の増やし方が変わります。それは夢ではないと訂正すると、次から本当のことを言わなくなることがあります。
Q. 何歳から参加できますか。
A. 未就学から中学生までを対象にしていて、中心は小学1〜4年生です。小学4年生以下は大人の付き添いが必須です。付き添いは子ども1名につき大人1名まで無料で、大人が追加になる場合は500円をいただいています。
Q. 一度参加したら、続けて通う必要がありますか。
A. ありません。私たちは教室を持っておらず、イベントと出張・オンラインのワークショップという形で活動しています。合わなければそれで構わない、という前提で設計しています。
Q. 参加費はいくらですか。
A. フェス形式の場合、子ども1名のパスポートが事前1,500円、当日2,000円です。出張やオンラインのワークショップは実施形態によって異なりますので、お問い合わせいただければお伝えします。
次回の開催日をメールでお知らせします
開催地と日程が決まった時点で、登録いただいた方にメールでお送りします。次回の予定がまだ決まっていない時期でも、決まり次第の連絡になります。
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