
探究の授業で、いちばん難しいのは最初の一歩です。テーマは配れても、問いは配れない。「疑問に思ったことを書きましょう」と言った瞬間に教室が静かになる、あの時間のことを書きます。結論を先に書くと、子どもが自分の問いを持つのは、考えている最中ではなく、手を動かしてうまくいかなかった直後です。
この記事の要点
- 問いは、考える時間の中ではなく「やってみて、思ったとおりにならなかった」直後に出ます。順番が逆になっている授業が多いように見えます。
- 問いが出る場面には3つの条件がそろっています。手が先に動いていること、ずれが起きること、直す余地が残っていることです。
- 問いの立て方を型として教えると、体裁の整った問いは増えますが、その子が自分で追いかける問いは減ります。
- うまくいかなかったのは、最初に良い問いの例を見せた回でした。例に寄せた問いばかりが並びました。
この記事は、学校や施設に呼ばれてデジタル体験の授業を行っている立場から書いています。教育課程の専門家ではありません。ただ、初めて会う子どもたちが最初の20分で何を言い出すかを、いろいろな学校で繰り返し見てきました。その観察の範囲で書いています。制度上の位置づけや評価の扱いについては、各校の方針が優先されることを前提にお読みください。

「疑問を書きましょう」では、問いは出ない
ワークシートの最初の欄に「気になったこと」と書いてあることがよくあります。この欄が埋まらないのは、子どもの意欲の問題ではないと考えています。埋められる材料がまだ手元にないだけです。
疑問というのは、自分が持っている見込みと、実際に起きたことのあいだにずれがあるときに出てきます。つまり、見込みを持つところまで先にやっていないと、ずれようがないということです。テーマを渡された直後の子どもには、まだ見込みがありません。だから欄が埋まらない。
問いが出る瞬間には、共通の形がある
現場で「あ、いま自分の問いが立った」と分かる場面には、だいたい同じ順番があります。
大事なのは3番の形です。「なんで?」だけで終わる問いは、たいてい教師に向けられた質問で、自分で追いかける気はありません。対象が絞られた問いになったときだけ、4番に進みます。
条件1:手が先に動いていること
順番の話です。説明を全部してから作業に入る設計だと、見込みを持つ機会が説明の中に吸収されてしまいます。先生の説明が上手であるほど、子どもは「そうなるんだ」と受け取って終わります。ずれる余地が消えるわけです。
私たちの授業では、説明を意図的に短く切ります。全部説明せずに触らせて、必要になった子から順に聞きにきてもらう形です。最初は教室が混乱しているように見えますが、問いの出る量はこちらのほうが明らかに多くなります。
条件2:思ったとおりにならないこと
ここが設計のいちばん難しいところです。簡単すぎる教材では、ずれが起きません。かといって難しすぎると、ずれが大きすぎて「わからない」で止まります。
ずれの大きさを調整する
ちょうどいいのは、7割くらいは思ったとおりになって、3割がずれる状態です。全部うまくいくと問いは出ませんし、全部うまくいかないと問いの前に意欲が切れます。教材を選ぶときは、難易度の高さではなく「部分的に成功するか」で見たほうが当たります。
条件3:直す余地が残っていること
ずれに気づいても、直せない形式だと問いは立ち消えます。提出物が一発勝負になっている授業では、子どもは「間違えた」と判断して、そこで思考を閉じます。
やり直せること自体が、問いを持ち続けてよいという合図になります。直せる回数が、問いの寿命を決めていると言ってもいいと思います。1コマの中で3回やり直せる設計にすると、3回目あたりで質問の質が変わります。
問いは、教えて立てさせるものではなく、やり直せる環境に置いたときに勝手に立つもの。
問いの立て方を型として教えると、何が起きるか
「なぜ」「どのように」「もし〜だったら」という型を配ると、ワークシートは埋まります。ただ、そのあとが続かないことがよくあります。両方を並べておきます。
| 観点 | 型を配った場合 | 起きるのを待った場合 |
|---|---|---|
| ワークシートの埋まり方 | ほぼ全員が埋まる。体裁も整う。 | 埋まらない子が残る。時間内に出ない場合もある。 |
| 問いの中身 | テーマの言い換えになりやすい。 | 対象が絞られている。本人にしか出せない形になる。 |
| そのあとの動き | 調べて終わる。答えが見つかると止まる。 | 自分で条件を変えて試す。答えが出ても次が出る。 |
| 教員の負荷 | 進行は安定する。 | 個別に見る時間が必要になる。 |
| 向いている場面 | 全員に成果物を出してもらう必要があるとき。 | 1人でも深く行く子を出したいとき。 |
どちらが正しいという話ではありません。ただ、両方を同じ1コマでやろうとすると、だいたい型のほうが勝ちます。目的を先に決めておく必要があります。
1コマに収めるときの組み方
45分または50分の枠でやるとき、私たちは次の配分にしています。
- 最初の5分:完成品を見せる、説明はしない何ができるのかだけ見せます。やり方は言いません。ここで見込みをつくってもらいます。
- 次の15分:とにかく触る説明を求められたら個別に答えます。全体に向けた補足は、3人以上から同じ質問が出たときだけにします。
- 次の15分:直すここが本体です。一度できたものを、あえて変えてもらいます。「もっとこうしたい」が出た子は、この時間で伸びます。
- 最後の10分:聞き合う成果物ではなく、うまくいかなかったところを言ってもらいます。他の子の失敗が、次の問いの材料になります。
向かないケース
この組み方がうまくいかない場面もあります。正直に書いておきます。
うまくいかなかったこと
現場から:良い問いの例を先に見せた回
導入として、過去の学校で出た良い問いをいくつか紹介したことがあります。狙いは基準を示すことでしたが、結果は逆でした。紹介した例に似た問いばかりが並び、その子自身の手元で起きたずれから出た問いが、ほとんど消えました。以降、例を出すのは最後の振り返りの時間だけにしています。
現場から:質問に全部答えた回
聞かれたことに丁寧に答えたら、問いが質問に変わってしまった回がありました。答えが返ってくると分かると、子どもは試す前に聞きます。今は「それ、どっちだと思う?」と一度返して、本人の見込みを口に出してもらってから答えるようにしています。ワンクッション置くだけで、自分で試す子の割合が変わります。
私たちの授業で、その瞬間をどう作っているか
ここまでの条件を、いちばん短い時間で満たせるのが生成AIを使う回です。私たちは生成AIでデザインという出張のメニューと、画面の中で完結するオンラインの生成AIコースを用意しています。
やることは単純で、つくりたいものを言葉にして、AIに絵を出させます。思ったものと違ったら、言葉のほうを変えてもう一度出す。この往復が、そのまま「見込み → ずれ → 直す」の3条件になっています。1回では完成しません。そこが狙いです。
過去の参加者から「ChatGPTの答えが間違っているということを初めて知りました」という感想が出たことがあります。AIは間違える、だから自分で判断する。これがいちばん持って帰ってほしいことです。私たち自身、AI時代に何が正解かの答えは持っていません。持っているふりをしないことを前提に授業を組んでいます。
1コマ単発でも成立します。お題は学校のテーマに合わせて差し替えられますし、ブラウザだけで完結するのでソフトの購入も要りません。

学年によって、何が変わるか
同じ組み方をしても、学年で出方が変わります。傾向として見えているものを書いておきます。断定できるほどの数を取っているわけではないので、現場の感覚として読んでください。
低学年は、ずれに対して言葉より先に手が出ます。問いを口にしないまま条件を変えはじめるので、外から見ると問いが立っていないように見えます。ここで「どうしてそうしたの」と聞くと、本人の中にあった見込みが言葉になって出てきます。問いを立てさせるのではなく、立っていた問いを言語化する手伝いだと考えたほうが合っています。
高学年から中学生になると、逆に手が止まります。うまくいかないことを人に見られるのが気になりはじめる年齢なので、試す前に正解を探そうとします。この層には、失敗している状態を先に見せるのが効きます。こちらが実演で失敗してみせると、教室の空気が明らかにゆるみます。
学年をまたぐ場合
異学年が混ざる場では、上の子に教える役を振ると全体が止まります。教える側に回った瞬間、その子自身の問いが消えるからです。役割を振るなら、教える役ではなく「困っている人を見つけて呼びにくる役」にすると、両方が生き残ります。
問いが出たあと、誰が拾うのか
外部の人間が入る授業でいちばん難しいのは、ここです。問いが出た瞬間には立ち会えても、その問いが育つのは私たちが帰ったあとの時間だからです。
実際、授業の最後に「もっと知りたくなったこと」を書いてもらうと、かなりの量が出ます。ただ、それが次の時間につながるかどうかは、こちらでは決められません。先生が翌週に一度その紙を戻すだけで、続く割合が変わるという話を何度か聞きました。
私たちが外から入る意味は、たぶん答えを渡すことではありません。地域にITで活躍する大人が少なく、子どもがその進路を身近に感じにくいという状況があって、その手本がいない状態を少しでも埋めるために動いています。1コマで進路が決まることはありませんが、「こういう仕事をしている人が実在する」という一次情報は、その場でしか渡せないものだと思っています。
評価はどうするか
ここは各校の方針が優先されるところなので、現場で使っている見方だけ書きます。問いの良し悪しを直接評価すると、良く見える問いを書く練習になってしまいます。
私たちが記録に残すようにお願いしているのは、問いそのものではなく、その問いが出たあとに何回試したかです。回数であれば本人にも見えますし、うまくいかなかった回も記録として残ります。成果物の完成度ではなく、やり直した回数を残すほうが、次の授業設計にも使えます。
当日おねがいしていること
外部の人間が入る授業で、準備として先生方にお願いしているのは次の点です。
- 説明を止めて子どもが触りはじめても、止めずに見ていただくこと
- 「わからない」と言った子に、すぐ答えを渡さないこと
- うまくいかなかった子の手元を、振り返りの材料として拾っていただくこと
- 端末は2人に1台まで。順番待ちが長いと、見込みが冷めます
- 時間が押したら、最後の聞き合いではなく直す時間を削らないこと
1コマしか取れない場合
やり直しの時間が確保できないなら、無理に問いを立てさせないほうがいいと考えています。その場合は「触って終わる」と割り切って、問いは次の授業で先生が拾う形にしたほうが、結果的に残るものが多くなります。
Q. 問いが出ない子には、どう声をかければいいですか。
A. 問いを聞くより、いま何をしようとしていたかを聞くほうが早いです。見込みを口に出してもらうと、そのあとのずれに本人が気づけるようになります。
Q. 45分1コマでも成立しますか。
A. 成立しますが、直す時間を15分確保できるかが条件です。確保できない場合は、問いを立てるところまでを目標にせず、触って終わる設計にしたほうが無理がありません。
Q. 端末が人数分ありません。
A. 2人に1台までなら組めます。それ以上になると待ち時間のほうが長くなるので、時間差で実施するか、つくる係と記録する係を分ける形をご提案しています。
Q. 出張とオンラインのどちらがいいですか。
A. 画面の中で完結する内容ならオンラインで足ります。ドローンや電子楽器のように、その場でしか成立しないものは出張でお届けしています。
Q. 事前に準備しておくことはありますか。
A. 対象学年・人数・回数をお知らせいただければ、こちらから組み方をご提案します。機材はこちらで持ち込みます。
授業・行事への出張を承っています
対象学年・人数・回数をお知らせいただければ、こちらから組み方をご提案します。オンラインでの実施にも対応しています。
すでにご検討中の方は こちらから直接ご相談ください。