
地域イベントを1回やること自体は、それほど難しくありません。予算を組んで、日程を押さえて、告知を打てば、人はある程度集まります。難しいのは2年目です。1年目に来た人が翌年も来るか、そして翌年も開催されるかどうか。ここで大半のイベントが止まります。
私たちはお寺、商業施設、公共施設、学校と、いろいろな場所で子ども向けのデジタル体験をやってきました。同じ内容をやっても、翌年に続く場所と、その年かぎりで終わる場所があります。差がついているのは、集客の巧拙ではありませんでした。
この記事では、集客のためのイベントが地域の行事に変わるとき、何が起きているのかを書きます。結論を先に言うと、2年目に残るかどうかは、1年目の当日ではなく、1年目の終わり方で決まっています。
この記事の要点
- 1回目が成功しても、翌年に残るとは限りません。残る条件は集客数とは別のところにあります。
- 残るイベントには、①地元の人が運営側にいる ②会場が「貸した場所」で終わっていない ③来年の話が当日中に出ている、の3つが共通しています。
- 告知は、SNSより学校や地域の配布物のほうが効く場面があります。私たちは3回やって、その順位が場所によって逆転することを確認しました。
- 行事になることを最初から目指す必要はありません。ただ、1年目の終わり方だけは設計しておく価値があります。
1回目が成功しても、2年目が来るとは限らない
集客だけで見れば、1回目はむしろうまくいきやすい。新しいものには人が来ますし、告知も打ちやすい。関係者の熱量も高い。だから1年目の報告書はきれいに書けます。
問題は、その報告書に書かれた成果が、翌年の判断材料にならないことです。「何人来た」は、翌年やるかどうかを決める人にとって、実は弱い情報です。来場者数は、翌年も同じだけ集められる保証にならないからです。それを知っているから、決裁する側は慎重になります。
翌年の判断で効く情報
数より「誰が動いたか」です。地元の誰が関わったか、施設の誰が手を動かしたか、次にやるとき誰に声をかければいいか。人の名前が残っている企画は、担当者が代わっても再開できます。

残るイベントに共通している3つのこと
翌年も開催された場所を振り返ると、共通点は3つでした。順番にも意味があります。
この3つは、どれも当日の集客とは関係がありません。むしろ、当日の運営がいちばん忙しいときに手をつけなければいけないことばかりです。だから抜けます。
1年目の終わり方を設計する
当日の運営計画には、たいてい撤収までしか書かれていません。ここに「終わり方」を足しておくと、翌年の確率が変わります。
来年やるかどうかは、来年決まるのではなく、今年の撤収中に決まっています。
告知は、場所によって効く順番が入れ替わる
ここは、私たちが実際にやってみて順位が逆転した部分です。愛媛県の「地域DX実践支援業務」の一環として、えひめDXキッズフェスタ2025 を3会場で開催しました。同じ座組みで、同じような告知を打っています。
ところが、来場者がどこでイベントを知ったかは、会場によってかなり違いました。松山ではSNS広告が半数以上を占めた一方、新居浜と西予では小学校で配ったチラシが上回り、西予では64%に達しました。
| 告知手段 | 効きやすい場面 | 準備にかかること | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 学校での配布 | 周辺人口が多くない地域 | 後援名義の取得と、教育委員会への相談 | 配布時期が決まっているので逆算が要る |
| SNS広告 | 都市部・広域から集めたいとき | 出稿費と、画像・文面の準備 | 広域に出るぶん、遠方からの申込が増える |
| ラジオ・地域紙 | 保護者以外にも知らせたいとき | 放送枠・掲載枠の確保 | 申込までの距離が遠く、効果が測りにくい |
| 施設の館内告知 | 商業施設・公共施設が会場のとき | 施設側の広報枠を借りる調整 | すでに来ている人にしか届かない |
ここから学んだのは、学校や地域を通した配布は、現金の支出なしで頼める場合があるということです。後援名義をいただいて配布をお願いする形は、予算が限られている企画ほど効きます。ただし配布のタイミングは学校側の都合で決まるので、開催日から逆算した相談が必要になります。
「集客イベント」と「地域の行事」の違い
両者は、当日の見た目ではほとんど区別がつきません。違いは、誰が「やる」と決めているかです。
| 観点 | 集客のためのイベント | 地域の行事 |
|---|---|---|
| 開催を決める人 | 主催者・発注者 | 複数の関係者。誰か1人が抜けても止まらない |
| 目的 | その年の集客・広報 | その場所で毎年やっていること |
| 運営する人 | 外部の事業者が中心 | 地元の人が一定の割合を占める |
| 翌年の話が出る時期 | 予算が決まったあと | 当日から次の数週間のうち |
| うまくいかなかったとき | 次はやらない、という判断になりやすい | やり方を変えて続ける、という判断になりやすい |
いちばん下の行が、実質的な分かれ目だと思っています。失敗したときに続けるかどうかが、その企画の性格を表します。1回目がうまくいかなくても続いた企画は、たいてい2年目以降に形が整っていきます。
お寺という会場でやってみて分かったこと
デジタルキッズクラブは愛媛・東京・千葉・愛知でイベントと出張のワークショップをやっています。教室は持っていません。会場は毎回お借りする形です。
2026年1月に、本願寺名古屋別院(西別院)で「令和のデジタル寺子屋」としてデジタルキッズフェスを開催しました。数百人規模の来場があり、想定を超えて長い待ち列ができた時間帯もありました。お寺という会場を選んだのは狙いがあってのことですが、やってみて初めて分かったことのほうが多かったというのが正直なところです。
お寺が会場として効いた理由
ひとつは、すでに地域の人が集まる理由を持っている場所だったことです。商業施設だと「買い物のついで」になりますが、お寺には行事としての下地があります。もうひとつは、会場側が企画に関わってくださったことでした。場所を貸す関係ではなく、一緒にやる関係になった時点で、翌年の話が出やすくなります。
うまくいかなかったこと
受け入れ人数の設計を甘く見ていました。想定を超える来場があり、待ち時間が長くなった結果、並んだのに体験できずに帰った方が出ています。集客が成功したせいで、体験の質が下がるという形の失敗です。いまは、先に「何人まで受け入れられるか」を決めてから告知の規模を決めるようにしています。順番を逆にしていました。
これは規模の大小にかかわらず起きます。告知が効くほど、キャパシティの設計が甘い部分が表に出る。集客の目標と、受け入れの上限は、同じ紙の上で決めたほうがいいというのが、いまのところの結論です。

どんな体験をどれくらいの回転で回せるかは、会場の広さと機材の台数で決まります。出張ワークショップの一覧に、体験ごとの所要時間の目安をまとめています。会場に伺うのが難しい場合はオンラインでの実施もできます。
向かないケース:行事にしないほうがいいとき
すべてのイベントが毎年続くべきだとは思っていません。続けることが目的になると、中身が薄くなります。次の場合は、1回で終わらせる判断に無理はありません。
- 周年事業など、その年に理由があるもの。翌年やる理由がないなら、無理につくる必要はありません。
- 担い手が1人しかいないとき。その人が異動や転居でいなくなった時点で止まります。続けるなら、先に人を増やす話です。
- 会場が毎年は使えないとき。場所が変わると、来る人の層も変わります。行事として定着しにくくなります。
- 今年の運営で、誰かが明らかに疲弊したとき。翌年を約束する前に、体制を直すほうが先です。
- 来場者の満足が低かったとき。同じ形で繰り返すと評判が固定します。やり方を変えるか、間を空けるほうが健全です。
2年目の稟議で効く材料は何か
翌年の開催を決めるのは、たいてい当日いなかった人です。その人の手元に何が届くかで判断が変わります。私たちが見てきた範囲でいうと、効く材料は次の順でした。
- 「来年も参加したい」と答えた割合。来場者数より、継続の根拠として扱われやすい数字です。当日アンケートで取れます。
- 体験できずに帰った人の数。需要が上限を超えていた証拠になります。マイナスの数字が、増額の根拠に転じる数少ない例です。
- 当日動いた地元の人の名簿。翌年の実行体制がすでにある、という説明になります。
- 時間帯ごとの人の入り。次に何時間開ければいいかが説明できると、規模の議論が具体的になります。
- 困ったことと、その対処。次は同じ失敗をしない、という説明ができます。
逆に効きにくいのは、当日の写真と、来場者の感想の抜粋だけをまとめた資料です。雰囲気は伝わりますが、翌年やる理由にはならないためです。写真は説明の補助として使い、判断材料は数字と体制で組んだほうが通ります。
2年目で変えるところ、変えないところ
続けると決まったあと、次に迷うのは「どこまで変えるか」です。全部同じだと飽きられるのではないか、と心配される方が多いのですが、私たちの経験では逆でした。
まとめると、器は変えず、中身を半分だけ入れ替えるのがいちばん無理がありません。器まで毎年変えると、来る側にとっては毎回が1年目になってしまいます。
やらなくていいこと
当日アンケートで聞いておくと効く3つ
- どこでこのイベントを知りましたか2年目の告知設計が、この1問でほぼ決まります。選択肢は実際に使った手段だけにして、「その他」に自由記述を置きます。
- お住まいはどのあたりですか市区町村まででかまいません。どこまで届いたかが分かると、会場の選び方が変わります。
- 来年も開催されたら参加したいですか翌年の判断材料として、来場者数より説得力があります。数字が低かった場合も、それは重要な情報です。
この3つは子どもではなく保護者に聞きます。子ども向けには、楽しかったかどうかではなく「何をつくったか」を書いてもらうほうが、あとで使える材料になります。
よくある質問
Q. 初年度の予算が限られています。それでも2年目につなげられますか。
つなげられます。むしろ小さく始めたほうが、翌年に同じ規模を維持しやすくなります。優先して確保したいのは、告知の出稿費より、地元で当日動いてくれる人です。人が残れば、翌年の立ち上がりが早くなります。
Q. 商業施設でも、行事として定着しますか。
定着している例はあります。ただ、商業施設は集客目標が明確なぶん、数字が届かなかった年に打ち切りの判断が早い傾向があります。館内の担当者が企画側に入っている状態をつくれるかどうかが、分かれ目になりやすいです。
Q. 外部の事業者に任せると、地域に何も残らないのではないですか。
任せ方によります。運営を丸ごと委託すると、翌年もその事業者がいないと回りません。当日の段取りを地元の方と一緒に組む形にしておくと、手順が地域側に残ります。依頼するときに「来年は自分たちでできる形にしたい」と先に伝えておくのが確実です。
Q. 何人来れば成功と言えますか。
受け入れられる上限まで来ていれば、それが上限です。上限を超えた集客は、待ち時間が延びるだけで満足度を下げます。人数より、体験できずに帰った方が何人いたかを見るほうが、翌年の設計に使えます。
Q. デジタル体験は、会場の設備がないと難しいですか。
必要な設備は思われているより少なく、電源と机と動線が確保できれば成立するものが多いです。機材はこちらで持ち込みます。会場の下見の段階で、電源の位置と、待機列をどこに作るかだけ決めておければ、当日の設営は短時間で終わります。