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体験の記録と振り返りシート、何を書かせるか

体験の記録と振り返りシート、何を書かせるか

体験や見学のあとに配る振り返りシートは、たいてい「楽しかったです」で埋まります。子どもが手を抜いているわけではありません。聞かれ方が、その答えしか引き出さない形になっているだけです。この記事では、外部講師として体験を持ち込む側から、振り返りシートに何を書かせると次につながるのかを、設問の実例つきで整理します。

この記事の要点

  • 「楽しかった」しか出てこないのは語彙の問題ではなく、設問が感想を聞いているからです。行動を聞けば行動が返ってきます。
  • 設問は4種類だけ。事実・引っかかり・変化・次の問い。この順に並べると、最後の1問が深くなります。
  • 書かせる量はA4の半分で十分です。枠を広げるほど、埋めること自体が目的になります。
  • いちばん価値があるのはうまくいかなかったことの記述です。ここを書いてよい場だと示さないと、絶対に出てきません。

「楽しかったです」は、子どものせいではない

体験のあとのシートを回収すると、感想欄がほとんど同じ言葉で埋まっていることがあります。楽しかった、またやりたい、勉強になった。

これは語彙が少ないからでも、振り返る力がないからでもありません。設問が「どうでしたか」と聞いているからです。どうでしたか、には感想でしか答えられません。感想を聞かれた子は、その場で最も安全な感想を書きます。

逆に、事実を聞くと事実が返ってきます。「最初にうまくいかなかったのは、どこでしたか」と聞けば、手順のどこで詰まったかが書かれます。この違いだけで、回収したシートの使い道がまったく変わります。

設問の質は、子どもの語彙ではなく、こちらの聞き方の設計で決まります。

設問は4種類に分けて、この順に並べる

いろいろな形を試してきましたが、結局この4種類に収束しました。順番にも意味があります。

  1. 事実を思い出す問い「最初にやったことを、順番に3つ書いてください」。ここは正解があるので、全員が書けます。書き始めのハードルを下げるのが役割です。
  2. 引っかかりを特定する問い「思ったとおりにいかなかったのは、どの場面でしたか」。ここで初めて、その子だけの内容が出てきます。
  3. 変化を言語化する問い「やる前と、やったあとで、考えが変わったことはありますか」。変わっていなければ「変わっていない」と書いてよいと、先に伝えます。
  4. 次の問いを立てる問い「もう一度できるなら、何を試してみたいですか」。これが探究につながる一問です。前の3問を書いたあとだから書けます。

この順番を崩して、いきなり「次に何をしたいか」を聞くと、たいてい空欄になります。手がかりがないところから問いは立たないからです。

タブレットを操作する子どもの手元
手が止まった場面を覚えているのは本人だけです。そこを聞き出せるかどうかが、シートの設計にかかっています。

聞き方を変えるだけで、答えはここまで変わる

同じことを知りたい場合でも、言い方を変えると返ってくるものが変わります。実際に書き換えた例を並べます。

よくある設問 書き換えた設問 返ってくるもの
今日の感想を書きましょう 最初にやったことを順番に3つ書いてください 工程の記憶。全員が書けるので、手が動き出す
難しかったことは何ですか 思ったとおりにいかなかったのは、どの場面ですか 具体的な場面。「難しい」という評価語を避けられる
何を学びましたか やる前に思っていたことと、違っていたことはありますか 前提のずれ。学びを自分で言い直す形になる
これからどうしたいですか もう一度できるなら、どこを変えて試しますか 次の実験の計画。条件つきなので考えやすい
友だちの作品はどうでしたか 自分が思いつかなかった方法を使っていた人はいましたか 他者の観察。評価ではなく発見として書ける

ポイントは、評価語を設問から追い出すことです。「難しい」「楽しい」「すごい」といった言葉が設問に入っていると、答えもその言葉で返ってきます。

「うまくいかなかったこと」を書ける場にする

振り返りシートでいちばん価値がある記述は、失敗の記述です。そして、いちばん出てこないのも失敗の記述です。

子どもは、提出物に自分の失敗を書くと評価が下がると考えています。そう教えられたわけではなく、これまでの経験からそう学んでいます。ですから、こちらから明示的に「ここは書いてよい場だ」と示さないかぎり出てきません。

失敗を引き出すための、たった一行

設問の横に「うまくいかなかったことを書いた人は、それだけで一歩進んでいます」と印刷しておくだけで、記述が変わります。口頭で言うより紙に刷ったほうが効きます。書いている最中に目に入るからです。

もうひとつ効くのは、大人側が先に失敗を見せることです。体験の最後に講師が「今日、自分はここで手順を間違えました」と一つ言うと、シートの記述が明らかに具体的になります。

書かせる量は、A4の半分でいい

枠が大きいシートは、埋めることが目的になります。埋めるために、当たりさわりのない文が増えます。

01設問は4問までそれ以上あると、後半が投げやりになります。4問で足りないと感じるときは、聞きたいことが絞れていないサインです。
021問あたり2〜3行行数が決まっていると、何を書けばいいかが逆算できます。自由記述の大きな枠は、書ける子とそうでない子の差を広げます。
03記入は10分以内体験の直後は集中が切れています。10分を超えると質が落ちるので、そこで切り上げる前提で設計します。

絵と文字を、どちらでも選べるようにする

低学年や、書くことに負荷がかかる子にとって、文章だけのシートは高い壁になります。書けないことと、考えていないことは別です。

実務的に効いたのは、1問だけ「絵でもよい」欄を作ることでした。多くの場合、子どもは絵と短い言葉を両方使います。そして、絵のほうが工程の理解をよく表していることがあります。何色のフィラメントがどこで詰まったかを、文章より正確に描く子がいます。

現場から

ある回で、感想欄はほとんど空欄のまま、裏面に装置の断面図を描いた子がいました。文章では何も伝わりませんでしたが、その絵を見ると、どこで詰まってどう直そうとしたかが全部わかりました。書式が合っていなかっただけで、振り返りはできていたということです。

いつ書かせるか

タイミングで、出てくるものが変わります。使い分けの目安です。

体験の直後(その場で10分)場面の記憶が鮮明なので、事実と引っかかりがよく書けます。ただし疲れているので、考えを整理する問いには向きません。
翌日以降の授業内(15分)整理された言葉が出ます。代わりに細部が消えるので、直後に撮った写真や作品を見せながら書かせると戻ってきます。
2回に分ける直後に事実と引っかかりだけ、後日に変化と次の問いだけ。手間は増えますが、最後の1問の質が明らかに上がります。

時間が取れるなら、2回に分ける形をおすすめします。1枚のシートを上下で切って、下半分を後日に回すだけでも成立します。

回収したあと、どう読むか

シートは書かせて終わりではありません。読む側の観点が決まっていないと、結局「みんなよく書けていました」で終わります。

  • 同じ場面で詰まった子が何人いたか(次回の工程を直す材料になります)
  • 誰も書いていない設問はどれか(設問そのものが機能していません)
  • 前提が変わったと書いた子は何人か(体験が認識に届いたかの目安になります)
  • 次の問いが「もっとやりたい」で止まっている子と、条件を書いている子の比率

この4つだけ数えておくと、次に同じ体験をやるときに直すところがはっきりします。私たちも、同じ体験を別の学校で行うとき、前の回のシートの「詰まった場面」を見てから工程を組み直しています。

読むときに気をつけたいのは、記述の長さで判断しないことです。たくさん書いた子のシートは目に留まりますが、内容の密度とは別の話です。二行しか書いていなくても、そこに具体的な場面の名前が入っていれば、十分に振り返っています。逆に、半ページ埋まっていても評価語が並んでいるだけのこともあります。数えるのは行数ではなく、固有名詞と場面の数にしてください。

もうひとつ、読んだ結果を子どもに返すかどうかも決めておきます。全員に返すのは負荷が高いので、次の授業の冒頭で「同じところで止まった人が多かった」と全体に一言戻すだけでも構いません。書いたものが読まれていると分かると、次の回の記述が変わります。

グループでやった回は、一度「個人」に戻す

数人で1台の機材を使う体験は珍しくありません。むしろ、台数の都合でそうなることのほうが多いはずです。このときの振り返りは、何もしないとグループの活動記録になります。「みんなで協力してできました」で終わります。

効くのは、設問の主語を全部「あなた」にしてしまうことです。「グループでうまくいかなかったところ」ではなく「あなたが手を出せなかった場面はありましたか」。主語を変えるだけで、同じグループから違う記述が出てきます。

会場の様子(遠景)
同じ机で同じ作業をしていても、手を動かしていた子と見ていた子では、書けることがまったく違います。

これを書かせると、グループ内で作業が偏っていたことがはっきり出ます。教える側にとっては耳が痛い情報ですが、次に台数や班の人数を決めるときの、いちばん確かな材料になります。私たちも、同じ体験の2回目からは班の人数を落とすことがあります。

保護者に見せるかどうかを、先に決める

振り返りシートを持ち帰らせるのか、学校で保管するのか。これも先に決めておかないと、子どもが迷います。

持ち帰る前提だと分かっていれば、子どもは家の人に読まれることを想定して書きます。それ自体は悪いことではありませんが、失敗の記述は確実に減ります。失敗を引き出したい回は、学校で預かる形にして、そう伝えてください。

一方で、家庭に体験の中身を伝えたい場合は、持ち帰り前提のシートを別に1枚作るほうが早いです。1枚で両方を兼ねようとすると、どちらの目的も中途半端になります。

評価に使うなら、先に伝える

振り返りシートを評価の材料にする場合は、書かせる前にそう伝えてください。伝えずに使うと、子どもは次の機会から本音を書かなくなります。一度そうなると、戻すのに時間がかかります。

評価に使うと決めた時点で、失敗の記述は減る

これは避けられないトレードオフです。評価に使う回と、使わない回を分けるのが現実的な解になります。使わない回は「先生しか読みません」「成績には関係ありません」と紙に書いてください。口頭だけでは信用されません。

うまくいかなかったこと

私たち自身の失敗も書いておきます。

以前、丁寧に振り返らせようとして、設問を8問にしたことがあります。事実、感想、学び、友だちのこと、家族に伝えたいこと、次にやりたいこと、と欲張りました。結果は、前半3問はよく書けていて、後半5問はほぼ空欄でした。聞きたいことが多い状態は、設計ができていない状態だと分かりました。

もうひとつ。ある回で「今日の学びを一文でまとめてください」という設問を入れたところ、全員がほぼ同じ一文を書きました。まとめさせる設問は、その場で共有された言葉をなぞるだけになりやすい。まとめは大人が読んで行うもので、子どもに求めるものではありませんでした。

他の教科・行事に持っていくとき

ここで挙げた4種類の設問は、デジタルの体験に限った話ではありません。校外学習でも、実験でも、地域の方を招いた回でも、そのまま使えます。

変わるのは1問目だけです。事実を思い出す問いを、その活動の工程に合わせて書き換えます。工場見学なら「見た順番に3つ」、実験なら「手順を3つ」。1問目が具体的であるほど、4問目が深くなります。

体験そのものの設計と、セットで考える

最後にひとつ。振り返りシートをいくら工夫しても、体験のほうが「言われたとおりに手を動かして完成」で終わっていると、書けることは限られます。

私たちが体験を組むとき、途中に必ず選択が発生する場面を入れているのはそのためです。色を選ぶ、順番を選ぶ、やり直すかどうかを選ぶ。選んだ子だけが、あとから「なぜそうしたか」を書けます。体験ごとの具体的な工程は 体験メニューのページ に、オンラインで実施する場合の形は オンライン体験のページ にまとめています。

Q. 感想欄は、なくしてしまってよいですか。

A. 1つ残す程度で構いません。感想を書きたい子もいます。ただし4問のうち3問は、事実・引っかかり・次の問いに割り当ててください。感想欄が中心だと、シート全体が感想で埋まります。

Q. 低学年でも同じ設問で書けますか。

A. 設問の数を2つに減らし、1問を「絵でもよい」欄にしてください。事実を思い出す問いと、もう一度やるなら何を変えたいかの2問で成立します。

Q. 書く時間はどのくらい取ればよいですか。

A. 体験直後なら10分が上限です。それ以上は集中が続かず、質が落ちます。時間が取れる場合は、直後に2問、後日に2問と分けるほうが、内容がよくなります。

Q. 失敗を書かせると、自信をなくしませんか。

A. 失敗そのものを書かせるのではなく、「思ったとおりにいかなかった場面」を聞く形にしてください。評価ではなく観察として書けるので、書いたあとにへこむことはほとんどありません。

Q. 回収したシートは、何に使えばよいですか。

A. 同じ場面で詰まった子の人数、誰も書いていない設問、前提が変わったと書いた子の数。この3つを数えるだけで、次回の工程と設問を直す材料になります。

この記事を書いた人

デジタルキッズクラブ(運営:lanitech合同会社)/西脇 靖紘

デジタルキッズクラブ 代表。愛媛・東京・千葉・愛知で、子どもがデジタルの道具に直接手を伸ばす一日一日をつくっています。これまでに延べ1,000名以上の子どもと保護者に体験を届けてきました。愛知淑徳大学ではAI関連科目の非常勤講師も務めており、日々AI×教育と向き合っています。これら記事の内容は、私たちの現場での運営や観察にもとづいています。

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