
イベントで建物に映像が映るのを見たあと、「あれ、家でもできる?」と聞かれることがあります。結論から書くと、できます。ただし、家でできるのは「映す」ところまでで、会場でやっていることの半分くらいです。その半分がどこまでなのかを、機材を買う前に知っておいたほうがいいと思って、この記事を書きました。
この記事の要点
- 家庭でのプロジェクションマッピングに必要なものは、プロジェクター・映す面・映像の3つだけです。専用ソフトは最初は要りません。
- 仕上がりを決めるのは機材の値段ではなく、部屋をどれだけ暗くできるかと、何に映すかです。ここを先に決めないと、買った機材が余ります。
- 向かないのは、きれいな完成品を一発で出したい家庭です。ずれを直す時間が体験の中身なので、そこを飛ばすと動画を再生しているのと変わりません。
- うまくいかなかったのは、平らな白い壁に映したときでした。凹凸のある対象に映したほうが、子どもの手が止まりません。
この記事は、各地で子ども向けのデジタル体験を開いている立場から書いています。映像制作の専門家ではありません。ただ、プロジェクターと子どもを同じ部屋に置いた回数はそれなりにあるので、どこで楽しくなり、どこで面倒になるかについては観察があります。家庭で何かを買う前の判断材料として読んでいただく想定です。

家でできること、家では難しいこと
まず線を引いておきます。プロジェクションマッピングと呼ばれているものは、実際には2つの作業に分かれています。映像をつくる作業と、それを対象の形に合わせて映す作業です。家庭で再現しやすいのは前者で、後者は条件がそろうかどうかで難易度が大きく変わります。
| やること | 家庭での難易度 | 理由 |
|---|---|---|
| 映像をつくる | 低い | タブレットやパソコンの無料アプリで足ります。描いた絵を動かすだけでも成立します。 |
| 暗くする | 中くらい | 夜であれば大半の部屋で足ります。昼間にやろうとすると、ここで詰みます。 |
| 対象に映す | 中くらい | 箱や段ボールなど、映す面を自分で作れば解決します。壁に直接映すのがいちばん退屈です。 |
| 形に合わせて歪みを補正する | 高い | 専用ソフトを使えばできますが、小学生がひとりで扱うのは現実的ではありません。 |
| 人前で発表する | 家庭では再現しにくい | 会場でやっていることの中核はここです。家族以外に見せる相手をどう用意するかの問題になります。 |
この表で言いたいのは、歪み補正までやらなくても、体験としては十分に成立するということです。むしろ最初から補正ソフトに手を出すと、映像をつくる前に大人が疲れます。
必要なものは3つだけ
家庭で始めるときに要るものを並べます。順番も大事なので、この順で考えてください。
- 映す面を決める段ボール箱をいくつか積む、白い紙を貼った発泡スチロール、家にある棚。凹凸があるほど面白くなります。ここを最初に決めると、あとの2つが自動的に決まります。
- プロジェクターを用意する映す面が小さいなら、明るさはそれほど要りません。設置距離のほうが問題になることが多いので、部屋の奥行きを先に測っておきます。
- 映像をつくるお絵かきアプリで描いた絵を、スライドショーとして切り替えるだけでも動いて見えます。最初から動画編集をやる必要はありません。
買う前に測っておくもの
プロジェクターの箱には「○○インチ相当」と書いてありますが、それは何メートル離したときの話かが重要です。映す面から機材までの距離を先にメジャーで測っておくと、買ってから「部屋に入らない」という事故を防げます。子ども部屋やリビングの短辺は、思っているより短いです。
映す面のほうが、機材よりも効く
ここが、家でやるときにいちばん見落とされるところです。プロジェクターの性能を比べる時間を、映す面を工夫する時間に回したほうが、子どもの反応は明らかに変わります。
理由は単純で、平らな白い壁に映した映像は、テレビとほとんど区別がつかないからです。子どもは数十秒で見慣れます。ところが、段ボールを積んだ凸凹の対象に映すと、映像が面をまたいで折れ曲がります。その瞬間に「あ、これテレビじゃない」と気づいて、箱の置き方を変えはじめます。
映像のクオリティではなく、映る対象の形が、子どもの手を動かしている。
映像は何でつくればいいのか
専用ソフトを探しにいく前に、家にあるもので試せます。次のどれかで足ります。
- お絵かきアプリで描いた絵を、順番に表示する(切り替えるだけで動いて見えます)
- プレゼンソフトのスライドショー機能に、画面切り替えのアニメーションを付ける
- 撮った写真や動画を、そのまま映す(自分の顔が箱に映るだけで、たいてい盛り上がります)
- 背景を黒にする。黒い部分は光が出ないので、その形がそのまま切り抜きになります
つまずきやすいところ:背景の色
プロジェクターは「黒を映す」ことができません。黒は光を出さないという意味なので、映したくない部分は黒で塗りつぶす、という発想に切り替える必要があります。ここを知らないまま白背景の絵を映すと、対象の形が光の四角に埋もれて、何が映っているのか分からなくなります。最初につまずくのはほぼここです。
いちばん面倒なのは「ずれ」を直す時間
映してみると、まず間違いなくずれます。箱の角と映像の角が合わない。上のほうだけ台形に伸びる。これを直す作業が、実は体験の中身そのものです。
直し方は2つあります。映像のほうを直すか、対象のほうを動かすか。家庭でやるなら、対象を動かすほうが圧倒的に速いです。箱を数センチずらすだけで合うことがよくあります。子どもは映像を直すより箱を動かすほうを自然に選ぶので、そのまま任せて構いません。
この「合わないものを合わせにいく」時間に、平面で見ていたものを立体として考え直す作業が入っています。大人から見ると単なる位置合わせですが、子どもの中では画面の中と外がつながる瞬間です。

向かないケース:やらなくていい家庭の条件
すすめない場合も書いておきます。次に当てはまるなら、機材を買うのは見送ったほうがいいと思います。
うまくいかなかったこと
うまくいった話だけ書くのは不誠実なので、外した例も残しておきます。
現場から:白い壁に映した回
準備が楽なので、平らな白い壁を映す面にしたことがあります。映像はいちばんきれいに出ました。ところが子どもの滞在時間は、いつもより明らかに短くなりました。きれいに映るということは、直すところがないということで、手を動かす余地が消えていたのだと思います。以後、あえて凹凸のある対象を用意するようにしています。
現場から:最初に完成形を見せすぎた回
イメージを持ってもらおうと、最初に完成度の高い作例を見せたことがあります。結果として、子どもが自分の絵を出すのをためらうようになりました。今は、わざと粗い作例から見せています。
会場でやっているのは、その先の部分
ここまでは家庭でできる範囲の話です。私たちが各地の会場で開いているiPadでプロジェクションマッピングという体験メニューは、同じ道具を使いながら、家庭では再現しにくいところに時間を割いています。
具体的には、映す対象が建物やそれに近い大きさになること、そして最後に発表があることです。今治では「メタ中島プロジェクト」の協力で、ご当地キャラクターに映像を投影しました。自分がつくったものが、自分の体より大きいスケールで、家族以外の人が見ている前に出る。ここが家庭との決定的な差です。
このメニューは、暗くできる場所と投影面が要ります。時間も3時間の枠を確保していただいています。短縮すると発表まで届かないからです。準備が重い体験ですが、そのぶん成果発表まで組み込みやすい形になっています。
家でやる価値は、どこにあるか
会場のほうが大きくて派手です。それでも家庭でやる意味はあると思っています。理由は、失敗できる回数です。
会場では、限られた時間の中で一度は形にしてもらいます。家なら、うまくいかなかった日の翌日にもう一度やれます。箱の積み方を変えて、また映して、やっぱり違うと言ってまた変える。この往復の回数は、家のほうが圧倒的に多く取れます。
私たちが活動しているのは、地域にITで活躍する大人が少なく、子どもがそういう進路を選びにくい状況があるからです。答えを教える場をつくりたいわけではなく、手を動かして考える場を増やしたいと思っています。その意味で、家庭の中に往復できる場所がひとつ増えるのは、会場を1回増やすのと同じくらい価値があります。
兄弟がいる家庭での回し方
機材が1セットしかないと、必ず順番待ちが発生します。ここでもめると、体験そのものが嫌な記憶になってしまうので、先に役割を分けておくのが現実的です。
おすすめは、つくる係と映す係を分けることです。上の子が映像をつくっている間、下の子は箱を積んで映す面をつくる。そして途中で交代します。映す面をつくる作業は、絵を描くのが苦手な子でも手が出せるので、年齢差があるほど役割分担がうまく噛み合います。
実際、会場でも同じことが起きています。同じ道具を前にしたとき、全員が同じ入口から入るとは限りません。映像をつくるのが好きな子と、映る場所をつくるのが好きな子は別の子であることが多く、これは学年や得意科目とはあまり関係がありません。家でやるときも、どちらの係に手が伸びるかを見ておくと、次に何を用意すればいいかが分かります。
1年後に残っているかどうか
機材を買うときにいちばん気になるのは、続くかどうかだと思います。正直に書くと、プロジェクター単体で1年続く家庭は多くありません。飽きます。
ただ、飽き方には2種類あります。映すこと自体に飽きる場合と、映すのは飽きたけれど映像をつくるほうが残る場合です。後者になった家庭では、プロジェクターは押し入れに入っても、お絵かきアプリや動画編集は続いていることがあります。これは失敗ではなく、入口として機能したということだと考えています。
買った機材を寝かせないために
プロジェクターは、映画を見る・寝る前に天井へ映す・誕生日に写真を映すといった使い道があります。プロジェクションマッピング専用と考えると出番が減りますが、家の中の別の用事と兼ねられるなら、置いておく理由が残ります。買う前に、その兼用先をひとつ決めておくのが確実です。
判断を1枚に落とす
最後に、買うかどうかを決めるための確認事項をまとめます。全部に「はい」が付くなら、始めてみて損はないと思います。
- 夜に、部屋の明かりを消せる時間が週に1回以上ある
- 映す面から2メートル前後の距離を確保できる場所がある
- 子どもが、映像を「見る」より「つくる」に興味を示したことがある
- 一発できれいに映らなくても、大人がイライラしない自信がある
- 段ボールや発泡スチロールを、家の中で積んでおける
迷っているなら
先に一度、どこかの会場で体験してから決めるのが確実です。子どもが映すほうに回りたがるのか、見ているだけで満足なのかは、実際に触らせてみないと分かりません。機材はそのあとでも買えます。
Q. 何歳からできますか。
A. 映像を描いて映すだけなら、未就学の子でも成立します。ずれを自分で直すところまで含めると、小学校低学年くらいから面白さが分かりやすくなります。
Q. 専用のソフトは必要ですか。
A. 最初は不要です。お絵かきアプリとスライドショーで足ります。歪みを細かく補正したくなった段階で、初めて専用ソフトを検討すれば十分です。
Q. 高いプロジェクターのほうがいいですか。
A. 映す面が小さいうちは、明るさの差はあまり効きません。それよりも設置距離が部屋に収まるかどうかを先に確認してください。
Q. 自由研究のテーマになりますか。
A. なります。ただし「映しました」で終わると薄くなるので、何度ずらして、どこで合ったかを記録として残すことをおすすめします。合わせる過程のほうが中身になります。
Q. 学校やイベントで体験できますか。
A. 出張のワークショップとして実施しています。暗くできる場所と投影面、3時間の枠が確保できれば、機材はこちらで持ち込みます。