
探究学習の年間計画を見直すとき、削るものを決めるのはたいてい「評価のしやすさ」です。誰も口には出しませんが、学期末に成績として説明できないものから順に、静かに落ちていきます。残ったのは、大事だったものではなく、書きやすかったものだった——そういう年度末を、多くの学校が経験しているのではないかと思います。
この記事は、総合的な学習の時間や探究のカリキュラムを組む立場の先生に向けて書いています。評価という仕組みがカリキュラムの中身をどう選別しているのかを整理し、そのうえで「評価しにくいものを、評価せずに残す」ための具体的な方法を提案します。制度そのものを否定する話ではありません。制度の中で残せるものを増やす話です。
この記事の要点
- カリキュラムから落ちるのは価値が低いものではなく、評価の説明がつきにくいもの。選別は無意識に起きている
- 「成果物が残る/基準が言語化できる/時間内に終わる」の3条件を満たす活動だけが生き残りやすい
- 対策は評価方法を精緻にすることではなく、評価の対象にしない時間を計画上あらかじめ確保すること
- 外部の一日を入れる方法は有効だが、外部講師を呼べば解決するわけではない。うまくいかなかった型も書きます
削られたものを並べてみると、共通点がある
年間計画を圧縮するとき、最初に候補に挙がるのはどんな活動でしょうか。現場でよく聞くのは、自由に試行錯誤する時間、テーマを自分で決める時間、失敗してやり直す時間です。逆に残るのは、調べ学習、まとめ、発表です。
前者が削られる理由は「価値が低いから」ではありません。多くの先生が、むしろそこに価値があると考えています。それでも削られるのは、その時間に何が起きたかを、評価の言葉で説明できないからです。保護者にも管理職にも説明が要る以上、説明できるものが優先されます。これは誰かの怠慢ではなく、仕組みが持っている性質です。
前提の確認
2026年9月時点で、小学校の「総合的な学習の時間」および高等学校の「総合的な探究の時間」については、学習指導要領が観点別の学習状況の評価を求めています。評価をやめる、という選択肢はありません。この記事が提案しているのは、評価の対象とする活動と、そうでない活動を計画段階で分けておくことです。
生き残る活動が満たしている3条件
実際に残っている活動を観察すると、次の3つを満たしていることがほとんどです。
この3条件は、それ自体は健全なものです。問題は、3つとも満たさない活動が議論の対象にすらならずに消えることのほうにあります。
評価を精緻にしても、解決しない
この問題への対処として、まず出てくるのがルーブリックの精緻化です。観点を増やし、段階を細かくし、非認知的な側面も測ろうとする。しかし現場で起きるのは、次の2つのどちらかでした。
| 対処 | 起きたこと | なぜそうなるか |
|---|---|---|
| ルーブリックの観点を増やす | 記入の負担が増え、2年目に簡略化される | 観点の数だけ根拠を集める必要があり、授業時間が記録に食われる |
| 非認知的な力を段階評価する | 子どもが評価されている姿を演じ始める | 「粘り強さ」を測ると宣言した時点で、粘っているように見せる行動が最適解になる |
| 自己評価シートを厚くする | 書くのが得意な子だけが高く見える | 測っているのが活動そのものではなく、言語化能力になっている |
| ポートフォリオを増やす | 集めたが読む時間がなく、活用されない | 蓄積のコストと参照のコストは別物で、後者の設計が抜けやすい |
共通しているのは、測ろうとした対象が、測られることで形を変えてしまうという点です。評価方法の改良では抜けられない構造なので、別の手を考える必要があります。
提案:評価しない時間を、計画に明記する
私たちが有効だと感じているのは、評価の精度を上げる方向ではなく、評価の対象としない時間を、年間計画の中に堂々と確保しておく方向です。「余った時間でやる」ではなく、最初から「ここは評価しません」と書いておく。
これには2つの効果があります。ひとつは、削られにくくなること。計画に書かれていないものは真っ先に消えますが、書いてあるものは議論の対象になります。もうひとつは、子どもが評価を意識せずに動けること。評価されないと分かっている時間で、初めて手が自由になる子がいます。
現場から
「今日は成績に関係ありません」と最初に伝えた回と、伝えなかった回では、子どもの手の動きが違いました。伝えた回のほうが、壊してつくり直す子が明らかに多くなります。うまくいった結果だけを残そうとしなくなるからだと思います。
「評価しない時間」をどう配置するか
- 単元の冒頭に置くテーマを決める前の、触ってみるだけの時間です。ここを評価対象にすると、子どもは最初から無難なテーマを選びます。
- 1コマ丸ごとにする「45分のうち10分」では切り替わりません。子どもは前後の文脈から、評価されているかどうかを読み取ります。
- 記録は取るが、評定には使わないと明言する記録自体は必要です。使わないことを先に伝えるだけで、行動が変わります。
- 保護者にも事前に共有する「何も評価されない授業があった」と伝わると誤解が生まれます。ねらいを一文添えておくと、ほぼ起きません。
- 年度末に、その時間から何が始まったかだけを振り返る評定はしませんが、観察の記録は次年度の計画の根拠になります。

評価せずに残すと、何が観察できるか
評定に使わないと決めると、逆に見える情報が増えます。評定のための観察は「どの段階に当てはまるか」を探しますが、そうでない観察は「何が起きたか」をそのまま見られます。実際に記録に残りやすいのは次のようなことです。
- 最初に手を出した子と、5分待ってから動いた子で、その後の粘り方が違う
- 教室では発言しない子が、道具を前にすると先に手が出る
- うまくいった子より、失敗した子のほうが人に説明したがる
- 終了後に「家でもできますか」と聞きに来る子は、成果物の出来とは相関しない
これらは評定には使えませんが、次の単元をどう組むかの判断には直接使えます。カリキュラム評価という言葉で本来意図されているのは、こちらの使い方に近いはずです。

評価は、出口だけでなく入口も決めている
評価の影響は、単元の終わりだけに現れるわけではありません。むしろ大きいのは、入口——テーマ設定の段階です。
子どもは、自分のテーマが評価されることを知っています。そのため、調べれば必ず何か出てくるテーマ、まとめやすいテーマ、先生が喜びそうなテーマを選びます。「地域の高齢化」「ごみの分別」「防災」。どれも良いテーマですが、毎年ほぼ同じ顔ぶれが並ぶのは、子どもの関心が均一だからではなく、評価に耐えるテーマの集合が狭いからです。
本当に気になっていることは、たいてい調べても答えが出ません。答えが出ないテーマを選ぶと、まとめの段階で困る。だから選ばない。この判断を、子どもは単元が始まった最初の1コマでやっています。出口の評価方法をどれだけ工夫しても、入口ですでに絞り込まれたあとなので、届きません。
だからこそ、評価しない時間を単元の冒頭に置くことに意味があります。テーマを決める前に、評価されない状態で触ってみる時間があると、選ばれるテーマの幅が変わります。実際、道具に触ってから決めさせた回では、例年出てこないテーマが出てきました。それが良いテーマだったかどうかは別として、少なくとも選択肢が広がったことは観察できます。
学年で合意を取るときの言い方
この方法の最大の障害は、指導要領でも保護者でもなく、学年での合意形成です。「評価しない時間をつくりたい」と切り出すと、たいてい最初に返ってくるのは「じゃあその時間は何をするのか」「説明を求められたらどうするのか」という2つの質問です。
経験上、通りやすかったのは次の言い方でした。評価をやめる話ではなく、評定の根拠として使う時間を明確にする話として持ち出すことです。「この単元では、第3〜8時を評定の根拠にします。第1〜2時は導入として、根拠には含めません」。こう言うと、評価を減らす提案ではなく、評価の範囲を明確にする提案として受け取られます。実際、後者のほうが説明責任の観点では強くなります。
もうひとつ効いたのは、いきなり全学年で始めないことでした。まず1単元、1学年で試し、そこで観察された具体例を持って次の学年会に出る。抽象的な理念のまま広げようとすると、賛成はされるが実装されないという状態になりやすい印象があります。
向かないケース
この方法が合わない場面もあります。正直に書きます。
うまくいかなかった3つの型
- 評価しない時間を、学年で足並みを揃えずに1クラスだけ導入した場合。隣のクラスとの差が保護者から指摘され、2年目に消えました
- 「自由にやっていい」とだけ伝えた場合。評価がなく手がかりもない状態は、子どもにとっては放置と同じです。道具と制約は要ります
- 受験を控えた学年で、時数を削って導入した場合。ねらいは共有されても、優先順位で負けます。無理に入れると翌年の反動が大きくなりました
やらなくていいこと
新しい評価ツールの導入は、急がなくて構いません。既存のルーブリックを捨てる必要もありません。この提案は、いま評価しているものはそのまま評価し、評価していないものを計画上で可視化するだけで成立します。導入コストが小さいことが、この方法のいちばんの利点です。
外部の一日を入れるという方法
「評価しない時間」をつくるとき、外部の人が入る一日は相性がよいことがあります。担任が評価者ではなくなるため、子どもも切り替えやすくなります。ただし、外部講師を呼べば自動的にそうなるわけではありません。評価しないと事前に決めておかないと、外部の一日もまとめと発表に吸収されます。
私たちデジタルキッズクラブは、教室を持たずに、機材ごと学校や施設に出向く形で活動しています。愛媛・東京・千葉・愛知で、延べ1,000名以上の子どもと保護者に体験を届けてきました。この形をとっているのは、地域にITで活躍する大人が少なく、子どもがエンジニアという進路を身近に感じにくいという状況があるからです。答えを教える場ではなく、手を動かして考える場をつくることを前提にしています。
45分1コマで何ができるか、どんな機材を持ち込めるかは出張ワークショップのページにまとめています。移動が難しい場合や小規模校の場合はオンラインワークショップという形もあります。
外部の一日を「評価しない時間」にするための確認
判断を1枚に落とすと
年間計画を見直すときに確認したいのは、次の3点だけだと考えています。①評価しない時間が計画に明記されているか → ②それは1コマ丸ごと確保されているか → ③そのねらいが学年と保護者に共有されているか。この3つが揃っていれば、削られにくくなります。評価方法をこれ以上精緻にする必要は、おそらくありません。
残したいものが評価しにくいのは、その活動の弱点ではなく、むしろ評価という道具の射程の外にあるというだけです。射程の外にあるものを射程内に引きずり込もうとすると、たいてい形が変わってしまいます。であれば、外に置いたまま守る方法を考えたほうが早い、というのがこの記事の結論です。
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よくある質問
Q. 評価しない時間をつくると、指導要領上まずくありませんか
A. 単元全体として観点別の評価を行っていれば、その中の一部の時間を評定の根拠に使わないこと自体は、通常問題になりません。ただし運用は自治体や学校で異なりますので、年間計画に位置づける段階で管理職と教育委員会に確認することをおすすめします。
Q. 保護者にはどう説明すればよいですか
A. 「評価しない」ではなく「評定の根拠には使わない」と伝えるほうが誤解が少ないです。そのうえで、ねらい(試行回数を増やすため)を一文添えておくと、ほぼ質問は出ません。
Q. 何時間くらい確保すればよいですか
A. 単元あたり1コマから始めるのが現実的です。10分程度では子どもが切り替えられないため、時間を分散させるより1コマにまとめるほうが効果があります。
Q. 記録は取らなくてよいのですか
A. 記録は取ってください。評定に使わないだけで、次年度のカリキュラムを組むための材料としては有効です。何を試して何が起きたかを、2行程度で残す形で足ります。
Q. 外部講師を呼べば、この時間になりますか
A. 自動的にはなりません。事前に評定の根拠に使わないことを決め、外部側にも共有しておく必要があります。決めずに実施すると、外部の一日もまとめと発表に吸収されてしまいます。