本文へスキップ

HOME コラム

「うちの子は理系じゃない」の正体|現場で見た3つの分かれ目と判断表

「うちの子は理系じゃない」の正体|現場で見た3つの分かれ目と判断表

「うちの子は理系じゃないので」。イベントの受付で、この言葉を本当によく聞きます。多くは、子ども本人ではなく保護者の方が、少し申し訳なさそうに言い添える形で出てきます。

けれど、そう言われた直後に3Dモデリングの席に座った子が、40分間ひとことも喋らずに画面の中の立体を回し続ける、ということが何度もありました。逆に「うちの子は理系なので大丈夫です」と言われた子が、5分で「もういい」と言って立ち上がることもあります。どちらも珍しい話ではありません。

この記事では、その「理系じゃない」という言葉が実際には何を指しているのかを、現場で見てきた範囲で分解します。結論から書くと、私たちが見ているかぎり、子どもがデジタルの道具に向かうかどうかを分けているのは教科の得意・不得意ではありません。分けているのは、もっと手前にある3つの条件です。そして「理系/文系」という区切り自体が、小学生の段階では制度上まだどこにも存在しません。

この記事の要点

  • 「理系/文系」は高校の科目選択で初めて現れる区分で、小学生に当てはめる制度上の根拠はありません
  • 保護者が「理系じゃない」と言うとき、その中身はたいてい「算数の点数」「機械の操作」「説明のうまさ」の3つのどれかです
  • デジタルの体験で手が動くかどうかを決めていたのは、教科の得意さではなく「最初の1手が自分で決められるか」でした
  • 向かない子・向かない場面もあります。無理に触らせる必要はなく、判断材料をこの記事の表にまとめました

「理系じゃないので」は、たいてい受付で言われる

この言葉が出てくるタイミングには、はっきりした傾向があります。体験が始まる前、しかも子ども本人が聞こえる距離で言われることがほとんどです。「この子、理系じゃないので、たぶんできないと思うんですけど」。悪気はまったくなく、むしろスタッフへの気づかいとして出てくる言葉です。

ただ、この一言は子どもに届いています。届いたあとの子どもの動きは、おおむね二通りに分かれます。ひとつは、はじめから「自分はできない側だ」という前提で席に着くパターン。もうひとつは、その言葉を言い返す代わりに黙って手を動かし始めるパターンです。後者のとき、保護者の方がいちばん驚きます。

現場から

3Dペンのブースで、「うちの子は不器用で理系でもないので」と言われた子が、立体の骨組みを最後まで組み上げたことがありました。時間はかかりました。ただ、途中で一度も「わからない」と言わなかった。あとで聞くと、家では折り紙をよく折るとのことでした。手を動かして立体を作る経験は、算数の点数とは別のところに積まれていた、ということだと思います。

私たちはこの逆のケースも同じくらい見ています。だから「理系じゃないから向いていない」という予測は、少なくとも一日の体験の場では、あまり当たりません。

そもそも「理系/文系」は、いつどこで出てくる区分なのか

制度の話を先に整理しておきます。小学校・中学校の学習指導要領に、児童・生徒を「理系」「文系」に分ける区分はありません。この区分が現実に働き始めるのは、高校で科目の選択が発生してからです。つまり、小学生を「理系/文系」で語るとき、それは制度上のどの区分でもなく、家庭の中でつくられた分類ということになります。

もうひとつ、2026年9月時点で押さえておくとよい変化があります。高校では2022年4月から「情報I」が必履修科目になり、大学入学共通テストでも2025年1月実施分から「情報」が出題科目に加わりました。これは文系・理系のどちらに進むかとは無関係に、全員が通る道です。

ここは断定を避けたいところ

制度が変わったからといって、「だから今のうちにプログラミングをやらせるべきだ」とは私たちは考えていません。入試のために小学生から準備するという話は、この記事の趣旨ではありませんし、そう主張できるだけの根拠も持っていません。ここで言いたいのは、「理系じゃないからデジタルは関係ない」という前提のほうが、すでに事実と合っていないということだけです。

「理系じゃない」の中身を3つに分解する

受付でこの言葉を聞いたあと、私たちは「たとえばどのあたりでそう思われますか」と聞き返すことがあります。返ってくる答えは、驚くほどきれいに3つに分かれます。

01
算数のテストの点数
いちばん多い答えです。計算が遅い、図形が苦手、といった具体的な話が続きます。ただ、デジタルの道具は計算をこちらが肩代わりしてくれる場面が多く、点数がそのまま操作の壁になることはあまりありません。
02
機械の操作に対する慎重さ
「壊しそうで怖がる」という話です。これは向き不向きというより、失敗していい場かどうかの問題であることが多い。壊れない、失敗しても戻せる、と分かった瞬間に動き出す子は多いです。
03
説明のうまさ
「何を作りたいか言えない」。これは理系かどうかとは関係がなく、言葉より先に手が動くタイプというだけのことがあります。作ったあとに聞くと、ちゃんと理由が出てきます。

3つとも、教科の得意・不得意というよりは、その場の設計でかなり変わってしまう要素です。だから私たちは、この3つを「その子の性質」ではなく「その日の条件」として扱うようにしています。

手が動いた子と、動かなかった子の違い

では実際に何が効いていたのか。一日のイベントで同じ体験メニューを何十人と回していると、動く子と動かない子の差がはっきり見えてきます。整理すると、こうなります。

見ていた点 手が動きやすい 手が止まりやすい
最初の1手 色や形など、自分で選ぶところから始まる 手順どおりに進めることから始まる
失敗の扱い やり直しが一瞬でできると分かっている 間違えると最初からになると思っている
完成の基準 自分で「これでいい」と決められる 見本にどれだけ近いかで判断される
大人の位置 横に座って、聞かれたら答える 後ろに立って、進み具合を見ている
持ち帰り 作ったものが手元に残る 画面の中で終わって消える

この表の左側は、算数が得意かどうかとまったく関係がありません。全部、場の作り方の話です。私たちが会場でいちばん時間をかけて設計しているのも、ここです。

向いていないのは子どもではなく、その日の入り方だったことのほうが、はるかに多い。

タブレットを操作する手元
最初の1手を「自分で選ぶ」形にしておくと、説明を聞くのが苦手な子でも先に手が出ます。

「理系じゃない」と言われた子が、実は強かったところ

もうひとつ、書いておきたいことがあります。私たちの体験メニューには、正解のないものが多くあります。デジタルアートや、生成AIで絵をつくるもの、プロジェクションマッピングのように「どう見せるか」を決めるものです。

この種の体験では、事前に「理系じゃない」と言われていた子のほうが、粘ることがよくあります。理由は単純で、正解を当てにいく必要がないからです。手順を正しく踏むことに慣れている子ほど、正解がないと逆に止まってしまう場面がある。これは能力の差ではなく、それまでにどういう課題に慣れてきたかの差です。

言い換えると

「理系じゃない」という言葉が指しているのは、多くの場合「正解が用意された課題での成績」です。正解が用意されていない課題では、その物差しはそもそも使えません。

向かないケースも、正直に書いておきます

すべての子にデジタルの体験が向いている、とは私たちは思っていません。実際にうまくいかなかった場面もあります。

  • 音や光に強く反応する子にとって、会場の音量や人の多さが先に負担になることがあります。落ち着いた場所での少人数のほうが合います
  • その日の体調・眠さは、興味よりはるかに強く効きます。午前の枠に変えただけで別人のように動いた子が何人もいました
  • 「やらされている」と本人が感じている状態では、内容が何であってもほぼ動きません。保護者の方の期待が強すぎるときに起こりがちです
  • 今どうしても別のことに夢中な時期(スポーツ、生き物、絵など)は、無理に広げないほうがいいと考えています

特に最後の1つは大事だと思っています。デジタルの体験は、いま夢中になっているものを押しのけてまでやるべきものではありません。私たちは「一日だけの入口」を用意している立場なので、合わなければ合わなかったで構わない、というのが正直なところです。

うまくいかなかったこと:説明を丁寧にしすぎた回

私たち自身の失敗も書いておきます。ある回で、事故を防ぎたい気持ちが先に立って、体験の冒頭に手順の説明を長くとったことがありました。結果は良くありませんでした。説明が終わる頃には集中が切れていて、手が動き出すまでに時間がかかった。とくに「理系じゃない」と言われていた子ほど、長い説明の段階で「やっぱり難しそうだ」と判断してしまったように見えました。

そこから、説明は最小限にして、危ないところだけを止める形に変えました。最初の30秒で手が動くかどうかが、その後の40分をほぼ決めてしまいます。

家でできること(順番があります)

特別な機材がなくてもできることを、順番に書きます。この順番は、飛ばすとうまくいかないことが多いです。

  1. 「理系じゃない」を口に出すのをやめるいちばん効果があるのがこれです。本人の前で言わない、というだけで入り方が変わります。代わりに何も言わなくて構いません。
  2. 選ばせるところから始める色、形、順番、なんでもいいので最初の1手を子どもに決めさせます。大人が決めた時点で、その活動は「やらされるもの」になります。
  3. やり直しを軽くする紙なら消しゴム、デジタルなら「もとに戻す」。失敗が高くつかないと分かるほど、試す回数が増えます。
  4. 出来を評価しない「上手」「下手」の代わりに、「どこを一番考えた?」と聞きます。答えが返ってこなくても構いません。聞かれた経験自体が残ります。
  5. 終わったあとに、何が始まったかを見るその場で盛り上がったかより、翌週も自分から触っているかのほうが大事です。触っていなければ、そのときはご縁がなかったということです。

やらなくていいこと

逆に、やらなくていいと考えていることもあります。

急がなくていい4つ

  • 教材や高価な機材を、体験の前に買いそろえること
  • 「将来役に立つから」という理由づけを子どもに説明すること
  • 周りの子と進み具合を比べること
  • 一度で好きになるかどうかを判断すること

3つ目については、私たちも会場でよく見ます。隣の子が先に完成させると、それだけで手が止まる子がいます。だから同じ体験でも、席の配置や進行の速さを揃えすぎないようにしています。

私たちがやっていること

ここまで書いてきたことは、デジタルキッズクラブが実際にイベントや出張の場で試してきたことです。私たちは教室を持っていません。愛媛・東京・千葉・愛知で、イベント(フェス)と、学校や施設への出張、それにオンラインのワークショップという形で活動しています。

教室を持たない理由は、そのほうが「合わなかったら来なくていい」を成立させやすいからです。継続を前提にすると、どうしても「向いている子」を選ぶ設計になります。私たちがやりたいのはその逆で、地域にITで活躍する大人が少ないために、子どもがエンジニアという進路をそもそも候補に入れられない、という状態のほうを埋めたいと考えています。手本がいないだけで、向き不向きの話にされてしまうのはもったいない。

一日の入口をつくる
フェスや出張の場で、選ぶところから始まる体験を用意します。ここで「できた」が手元に残ることを重視しています。
大人の顔を見せる
機材を触るだけでなく、それを仕事にしている人と話す時間をつくります。職業の名前より、人の顔のほうが記憶に残ります。
続けたい子には続く道を渡す
オンラインのワークショップなど、家からでも触れる形を用意しています。全員が続ける必要はない、という前提です。

具体的な体験メニューは 3Dモデリング や オンラインのデジタルアート のページに、当日どんな流れで進むかまで書いてあります。「理系じゃないので」と思っている方は、正解のないほうのメニューから見ていただくのがいいと思います。

デジタルキッズクラブの会場ののれん
会場は商業施設やお寺など、日常の延長にある場所を選んでいます。特別な場所に行く感じを減らすためです。

それでも判断に迷ったら

最後に、行くかどうかを決めるための材料を1枚にまとめます。子どもの性格ではなく、いまの状況で見てください。

いまの状況 おすすめの入り方 避けたほうがいいこと
本人が興味を示していない 短時間で終わる体験を1つだけ。付き添いは横に座る 一日通しの予定を先に組むこと
本人はやりたいが親が不安 安全面の説明がある体験から。3Dペンやレーザーは大人の目が要ります 不安を本人の前で口に出すこと
人混みや音が苦手 オンラインか、少人数の出張形式 大きなフェスの混雑する時間帯
すでに別の熱中対象がある 今回は見送る。時期をずらす 「せっかくだから」で足すこと
学校での様子が気になる 学校とは違う評価軸の場を一度見る 学校の課題の延長として持ち込むこと

「理系じゃないので」という言葉は、たいてい子どもを守るために出てきています。そこに悪意はありません。ただ、その言葉が先に子どもに届いてしまうと、まだ試していないことまで「自分には関係ない」の側に分類されてしまう。私たちが一日をつくっているのは、その分類が固まる前に、一度だけ手を動かす場所をつくっておきたいからです。

よくある質問

Q. 算数が苦手でも、3Dモデリングやプログラミングの体験についていけますか。

A. 体験の場ではほとんど問題になりません。寸法の計算はソフト側が担当しますし、私たちのメニューは数値を入力するより、形を見ながら動かすものが中心です。実際に「算数が苦手」と言われていた子が最後まで作り切る場面は何度もありました。

Q. 何歳から参加できますか。

A. 未就学から中学生までを対象にしていて、中心は小学1〜4年生です。小学4年生以下は大人の付き添いが必須です。付き添いは子ども1名につき大人1名まで無料で、大人が追加になる場合は500円をいただいています。

Q. 一度体験したら、続けて通う必要がありますか。

A. ありません。私たちは教室を持っておらず、イベントと出張・オンラインのワークショップという形で活動しています。合わなければそれで構わない、という前提で設計しています。

Q. 子どもが機械を壊さないか心配です。

A. 壊れやすい部分は事前に外すか、触れない配置にしています。3Dペンやレーザー彫刻のように熱を使うものは、スタッフが横につく形で進めます。安全面で気になる点があれば、当日受付でお伝えください。

Q. 参加費はいくらですか。

A. フェス形式の場合、子ども1名のパスポートが事前1,500円、当日2,000円です。出張やオンラインのワークショップは実施形態によって異なりますので、お問い合わせいただければお伝えします。

次回の開催日をメールでお知らせします

開催地と日程が決まった時点で、登録いただいた方にメールでお送りします。次回の予定がまだ決まっていない時期でも、決まり次第の連絡になります。

メールでお知らせを受け取る

すでにご検討中の方は こちらから直接ご相談ください。

この記事を書いた人

デジタルキッズクラブ(運営:lanitech合同会社)/西脇 靖紘

デジタルキッズクラブ 代表。愛媛・東京・千葉・愛知で、子どもがデジタルの道具に直接手を伸ばす一日一日をつくっています。これまでに延べ1,000名以上の子どもと保護者に体験を届けてきました。愛知淑徳大学ではAI関連科目の非常勤講師も務めており、日々AI×教育と向き合っています。これら記事の内容は、私たちの現場での運営や観察にもとづいています。

コラム一覧へ

次の開催をお知らせします

次回のデジタルキッズフェスは準備中です。
LINEの友だち追加で、日程と会場が決まりしだい、追加いただいた方から先にご案内します。

LINEでお知らせを受け取る

メールで受け取りたい方はこちら

前回のレポートを読む レポート|デジタルキッズフェス in 西別院(2026年1月・名古屋)