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Uターン施策の10年手前|子どもが地元を候補から外す時期

Uターン施策の10年手前|子どもが地元を候補から外す時期

若者が地元に戻ってこない。この課題に対する施策は、ほとんどが十八歳以降に集中しています。奨学金の返還支援、Uターン就職の合同説明会、移住の補助。どれも必要な施策ですが、子どもが地元を「自分の選択肢から外す」のは、もっと手前で起きています。その手前で何ができるのかを、子ども向けのデジタル体験をつくってきた立場から書きます。

この記事の要点

  • Uターン施策の議論は十八歳以降に集中しているが、地元を候補から外す判断はおおむね十年前に始まっている。
  • 決め手は「仕事がない」ではなく、「その仕事をしている大人を見たことがない」こと。
  • だから必要なのは施設ではなく、実物を持った大人が地域に現れる回数。
  • 短期の指標では測れないので、何を記録しておくかを先に決める必要がある。

地元が候補から外れるのは、進路を考える前

進路指導の場面で地元を選ばない子は、その場で判断しているわけではありません。だいたいは、もっと前に決まっています。自分が興味を持ったものについて、この地域で働いている人を一人も思い浮かべられない。その状態が数年続けば、候補として検討する段階にすら上がりません。

ここで重要なのは、否定的に判断されているのではなく、検討の対象に入っていないという点です。比較されて負けたのであれば、条件を改善すれば勝てる可能性があります。しかし、そもそも候補に入っていないものは、条件をどれだけ良くしても選ばれません。

子ども向けイベントが開かれている会場の遠景
場所は特別である必要がありません。日常的に通る場所にあることのほうが効きます。

「仕事がない」と「見たことがない」は別の問題

地域に仕事がない、という説明はよく使われます。ただ、実際にはIT関連の求人が出ている地域でも、子どもの側にその情報は届いていません。求人は大人の情報流通に乗るもので、小学生の視界には入らないからです。

私たちが活動を始めた動機もここにあります。地域にITで活躍する大人が少なく、子どもがエンジニアという進路を選びにくい。少ないのではなく、いても子どもから見えていないことも多い。手本がいない状態を埋めることを目的にしています。

段階 そこで起きていること 施策が届いているか
小学校期 興味の対象が広がる。地域で見た大人の職業が、そのまま候補の母集団になる ほとんど手当てされていない。イベントも単発で終わりやすい
中学校期 自分にできること・できないことの線引きが始まる。ここで外れると戻りにくい 職場体験はあるが、受け入れ先の業種が地域の既存産業に偏りがち
高校期 進学先の所在地で、実質的に居住地が決まる 進路指導や地元企業説明会など、施策が集中する
大学・就職期 戻るか戻らないかの判断。ここではもう母集団の中から選んでいる 奨学金返還支援・移住補助など、金額の大きい施策が並ぶ

施策の予算は右側に厚く積まれていて、左側はほぼ空白です。空白の期間が十年あります。

条件で負けているのではなく、候補に入っていない。改善する場所が違います。

必要なのは施設ではなく、現れる回数

子ども向けの拠点をつくる、という発想は自然に出てきます。ただ、常設の施設は運営費と人員を固定で必要とし、単年度予算との相性が悪い。私たち自身、常設の拠点を運営していた時期がありましたが、いまは持っていません。

代わりに置いているのが、一日をつくるという形です。機材を持って地域に行き、その日だけ場をつくって帰る。継続性は施設ではなく、回数で担保します。

設計 1日常の場所でやる商業施設、公民館、お寺。わざわざ行く場所ではなく、たまたま通りかかる場所のほうが、関心のない層に届きます。
設計 2大人を隠さない機材の説明より、運んできた人が何をしている人なのかを見せます。職業が候補に入るのはこの瞬間です。
設計 3同じ地域に何度か行く一度では顔として残りません。年に複数回のほうが、規模を大きくするより効きます。

需要は、思っているより手前にある

「そもそもニーズがあるのか」という質問は、庁内の検討段階で必ず出ます。私たちが愛媛で開いたえひめDXキッズフェスタでは、定員40名に対して135名の申込みがありました(2025年8月13日時点)。名古屋で開いたフェスにも、数百人規模の来場がありました。

この数字が示しているのは、体験そのものへの関心が高いというより、近くに機会がない状態が続いていたということだと考えています。供給が薄い場所ほど、一回あたりの申込みが跳ねます。

現場から

受付で保護者の方から最も多くいただく質問は、内容に関するものではなく「次はいつやりますか」です。単発の催しとしてではなく、継続する機会として見られている。ここに応えられないと、関心は一回で戻ってしまいます。

担当者が庁内で通すときの論点

  1. 何の課題に対する施策として置くか教育の枠か、産業振興の枠か、移住定住の枠か。どこに置くかで使える財源も、求められる指標も変わります。
  2. 短期の指標を約束しすぎない効果が出るのは十年後なので、来場者数以外の指標を最初に定義しておかないと、二年目に説明ができなくなります。
  3. 単年度で切れない形にしておく初年度に記録の形式と実施主体を決めておくと、担当者が替わっても引き継げます。
  4. 庁内で誰が引き取るかを決めておく外部委託だけで組むと、事業者が替わった時点でノウハウが消えます。

来場者数の次に、何を数えるか

来場者数は説明しやすい指標ですが、これだけを追うと規模を大きくする方向にしか動けなくなります。実際に効いているかを見るなら、別の記録が要ります。

  • 再訪率。同じ子が二回目に来たかどうか
  • 保護者以外の付き添い。祖父母や地域の方が連れてきた割合
  • 終了後に子どもが口にした「やってみたい」の中身を記録しておく
  • 協力してくれた地域の大人の人数と、その職種
  • 翌年度、地域側から声がかかったかどうか

最後の項目がいちばん実態を表します。翌年に地域側から連絡が来るなら、その施策は地域の中に残っています。来なければ、外から持ち込まれた催しのまま終わっています。

デジタルキッズクラブの横断幕が掲げられた会場
一日で完結する形なので、会場の制約が小さく、地域を変えながら続けられます。

うまくいかなかったこと

成功した話だけ書いても参考になりません。私たちが外したところも書いておきます。

ひとつは、キャパシティの設計です。想定を超える来場があったとき、待ち列が長くなり、体験できずに帰った家族が出ました。関心の高さは歓迎すべきことですが、体験できなかった人にとっては、機会がなかったのと同じです。以降は、申込み制と当日枠を分けて設計しています。

もうひとつは、単発で終わった地域があることです。初年度は盛り上がったものの、翌年度の予算が付かず、二回目がないまま終わりました。一回だけの実施は、何もしないよりは良いものの、期待させて終わるという副作用があります。継続の見通しが立たない場合は、その旨を最初に共有したほうが誠実だと考えています。

学校と組むか、社会教育の枠で組むか

同じ内容でも、学校の授業として組むか、休日の催しとして組むかで、届く層が入れ替わります。学校で組めば全員に届きますが、参加の意思とは関係なく座っている子も含まれます。休日の催しは、来る子の熱量は高いものの、もともと関心のある家庭にしか届きません。

地域としてどちらが必要かは、目的によります。候補の母集団を広げたいなら学校の枠、深く入る子を増やしたいなら休日の催し。両方やるのが理想ですが、予算が一つしかない場合は、先に学校の枠を押さえたほうが取りこぼしが少なくなります。

社会教育の枠で組む場合、公民館や図書館、商業施設など既存の場所を使えるので、会場費を抑えられます。私たちが必要としているのは電源と机と動線だけなので、専用の設備がある必要はありません。

他の自治体の事例をどう読むか

庁内の検討では、他自治体の事例が必ず求められます。ただ、公開されている事例の多くは初年度の報告で、二年目以降がどうなったかは書かれていません。

読むときに見たほうがよいのは、来場者数ではなく何年続いているかです。三年以上続いている取り組みには、必ず継続の仕組みがあります。地元の団体が引き受けているのか、財源が単年度ではないのか、担当課が替わっても残る形になっているのか。そこが書かれていない事例は、成功例としてよりも、初年度の設計例として読むほうが安全です。

もうひとつ、規模の大きい事例をそのまま持ち込まないことです。数千人規模の催しは、運営体制も予算も別物になります。自分の自治体の人口規模と、確保できる人員から逆算したほうが、二年目が残ります。

企業が関わる場合

自治体だけでなく、地域の企業が関わることでも成立します。ここで効くのは資金だけではありません。むしろ、その企業で働いている人が当日に立つことのほうが効きます。

ただし、採用広報として組むと、子どもには伝わります。会社名を覚えてもらうことを目的にすると、大人が説明する時間が増え、子どもが手を動かす時間が減る。結果として、どちらの目的も達成されません。関わり方の設計は協賛・自治体連携のページに整理しています。

私たちが提供できること

デジタルキッズクラブは、愛媛・東京・千葉・愛知で開催しており、岐阜での実施を提案中です。運営はlanitech合同会社で、教室は持たず、イベントと出張・オンラインのワークショップだけで動いています。

機材ごと伺う出張ワークショップは、規模を人数と時間で調整できます。距離や日程の都合がつかない場合はオンラインワークショップという形もありますが、実物に触れることが目的であれば、現地開催のほうが目的に合います。

費用の規模感や運営体制については、過去の実施分の内訳を開示できます。提案資料に使える形でお渡ししていますので、検討の初期段階でご相談ください。

やらなくていいこと

最後に、力を入れなくてよかったところも挙げておきます。まず、独自の教材を開発すること。子どもが触りたいのは実物の機材で、教材の出来映えではありませんでした。次に、成果発表会を大きくすること。発表の準備に時間を割くほど、手を動かす時間が削られます。三つ目は、参加者アンケートの設問を増やすことです。回答率が落ちるうえ、増えた設問のほとんどは翌年度の判断に使われませんでした。

逆に、削らないほうがよかったのは記録です。写真と、当日その場で起きたことのメモは、二年目以降の説明資料の中核になります。ただし子どもの顔が写った写真は、掲載許諾が確認できたものだけを使う運用にしておかないと、あとで使えなくなります。

十年かかる、と最初に言う

この種の施策は、効果が出るまでに時間がかかります。いま小学三年生の子が進路を決めるのは十年後です。その間に担当者は替わり、首長も替わるかもしれません。

それでも、十年前に何もしなければ、十年後に選ばれる可能性はゼロのままです。戻ってくるかどうかの手前にあるのは、出ていく前に何を見たかという記憶だと考えています。私たちがつくっているのは、その記憶の材料です。

なぜ子ども向けの施策が、若者の定着につながるのですか。

地元を候補から外す判断は、進路を決める段階ではなく、その十年ほど前に始まっているためです。自分が興味を持った分野で働く大人を地域で一人も思い浮かべられない状態が続くと、検討の対象にすら上がりません。条件で負けているのではなく、母集団に入っていない状態を変えることが目的になります。

常設の施設をつくるべきでしょうか。

常設施設は運営費と人員を固定で必要とし、単年度予算との相性がよくありません。私たち自身、常設拠点を運営していた時期がありますが、現在は持っていません。継続性は施設ではなく、同じ地域に何度も行く回数で担保するほうが、規模を問わず組み立てやすいと考えています。

効果はどのような指標で測ればよいですか。

来場者数だけを追うと規模拡大の方向にしか動けなくなります。再訪率、保護者以外の付き添いの割合、終了後に子どもが口にした「やってみたい」の中身、協力した地域の大人の人数と職種、そして翌年度に地域側から声がかかったかどうかを記録しておくことを勧めています。

ニーズが本当にあるのか庁内で説明を求められています。

愛媛で開いたえひめDXキッズフェスタでは、定員40名に対して135名の申込みがありました(2025年8月13日時点)。名古屋でのフェスにも数百人規模の来場がありました。関心が高いというより、近くに機会がない状態が続いていた地域ほど申込みが跳ねる傾向があります。

企業が関わる場合、どのような形が有効ですか。

資金だけでなく、その企業で働いている方が当日に立つことのほうが効きます。ただし採用広報として組むと子どもに伝わり、大人が説明する時間が増えて手を動かす時間が減ります。結果としてどちらの目的も達成されないので、関わり方は事前に設計することを勧めています。

この記事を書いた人

デジタルキッズクラブ(運営:lanitech合同会社)/西脇 靖紘

デジタルキッズクラブ 代表。愛媛・東京・千葉・愛知で、子どもがデジタルの道具に直接手を伸ばす一日一日をつくっています。これまでに延べ1,000名以上の子どもと保護者に体験を届けてきました。愛知淑徳大学ではAI関連科目の非常勤講師も務めており、日々AI×教育と向き合っています。これら記事の内容は、私たちの現場での運営や観察にもとづいています。

協賛・自治体連携のご相談を承っています

協賛・自治体連携のページに、規模別の関わり方と費用の考え方をまとめています。過去の実施分の内訳も、提案資料に使える形でお渡しできます。

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