
デジタル人材が足りない、と言われます。地域でも、産業界でも。ただ、その話をするとき、たいてい足りないのは「教える機会」だと結論づけられます。私たちの見立ては少し違います。
この活動を始めた理由は、統計の分析ではありませんでした。代表の西脇が、地域で実際に感じたことです。
地域には、ITやAIで活躍する大人が少ない。だから子どもは、そもそもエンジニアを目指しにくい。
見たことのない職業は、選択肢になりません。地方の子どもにとって「エンジニア」は、能力や意欲の問題ではなく、身近に手本がいないという理由だけで進路から落ちています。この記事は、そこで実際に何が起きているのかと、地域として何ができるのかの話です。
「教える機会」より先に足りていないもの
プログラミング教育は必修化され、端末も配られました。触れる機会という意味では、10年前とは比べものになりません。それでも子どもが進路として選ばないのはなぜか。
私たちが現場で感じているのは、「やり方」は増えたが「その先にいる人」が見えていないということです。子どもは職業を、教科ではなく人で覚えます。近所に誰もいなければ、その仕事は世界のどこか遠くにあるものになります。
体験の機会は、所得より「距離」で差がつく
体験格差というと所得の話になりがちですが、私たちが動いてきた範囲で強く感じるのは距離のほうです。
- 3Dプリンターやレーザー彫刻に触れられる場所は、都市部に偏っています
- 週末に親が車で1時間かけて連れて行ける家庭と、そうでない家庭で、実際の回数が大きく変わります
- そして子どもは、行ったことのないものを「自分には関係ない」と分類します
だから私たちは、教室を持ちません。子どもを呼び寄せるのではなく、機材ごと地域に出ていく形を選んでいます。愛媛、東京、千葉、愛知で開催し、岐阜では自治体への提案を進めています。
常設をつくって、やめた話
最初からこの形だったわけではありません。2023年11月、今治の商業施設のなかに、無料で入れる常設の拠点を開きました。ドローン、3Dプリンター、電子楽器、3Dペンを常時置き、週4〜5日開けていました。
結果は、来館が1日あたり0〜7組で張り付きました。2024年5月末で営業を終えています。
この失敗から学んだことははっきりしています。無料でいつでも入れることは、行く理由にならない。むしろ「その日しかない」「今日は特別だ」という密度があるほうが、人は動きます。2026年1月に名古屋の本願寺名古屋別院で開いたイベントには、約415名(子ども177名・大人238名)が来場しました。2025年8月のえひめDXキッズフェスタでは、定員40名に対して135名の事前申込がありました。
地域で何かを始めるとき、常設施設をつくる方向に話が向きがちです。私たちの経験から言えば、先に一日をつくったほうが、確実に人は動きます。
1回やって終わる地域と、残る地域の違い
イベントを1回開催すること自体は、そう難しくありません。難しいのは、その日が終わったあとに何が残るかです。私たちが見ている限り、差がつくのはこの3点です。
| 残らないパターン | 残るパターン | |
|---|---|---|
| 場所 | 単発で会場を借りる | すでに人が集まる場所(商業施設・寺社・公共施設)と組む。翌年も同じ場所で開ける |
| 人 | 外部の運営者だけで完結する | 地域の企業・学生・団体が運営側に入る。次回は当事者が増えている |
| 記録 | 来場者数だけを数える | 子どもがどう変わったかを聞き取り、次回の設計に使う |
3つ目が、いちばん抜けやすいところです。
来場者数の、次に見るべき指標
正直に書きます。私たちも、ここはまだできていません。「エンジニアを目指す子どもを増やす」という目的に対して、来場者数は入口の数字でしかありません。いま作ろうとしているのは、この段です。
| 段 | 指標 | 取り方 |
|---|---|---|
| 認知 | 来場者数、体験実施数 | 現行どおり |
| 変化 | 「またやりたい」「家でも作りたい」と答えた子の割合 | 当日アンケート(子ども向け・記号回答) |
| 変化 | 保護者の進路認識の変化(ITの仕事を身近に感じたか) | 当日アンケート(保護者向け) |
| 継続 | 次回への再参加率 | 事前登録リストとの突合 |
| 到達 | 参加後に自分で何かを作った/続けた子の数 | 数ヶ月後のフォローアンケート |
自治体の事業として見るとき、集客数よりこの「変化」「継続」の線のほうが説明力を持ちます。そしてこれは、最初から計測込みで設計するのがいちばん安く済みます。後から追加すると、比較対象がない状態から始めることになります。
よくある誤解:機材を買えば地域に残る
ご相談のなかでよく出るのが、「まず機材を購入して、公共施設に置いてはどうか」という案です。予算の使い道としても分かりやすく、備品として残ります。
ただ、私たちの経験から言うとここが一番失敗しやすいところです。3Dプリンターを1台置いても、それだけでは何も起きません。隣について「次はここを押すよ」と言う大人がいて、はじめて子どもの手が動きます。そして機材は、使われないと確実に劣化します。
私たちが数百人規模の一日を組むとき、費用の内訳で最大になるのは機材費ではなく人件費です。当日の運営体制は30名を超えます。備品ではなく、扱える人と運営の手順のほうが、実は再現性を持っています。
もし機材を持つなら、同時に「誰が使えるようにするか」を設計に入れてください。地域の高校生や大学生を運営側に入れる形は、この点で有効だと考えています。私たちも学生スタッフの協力を得て運営してきました。逆に、その設計がないまま機材だけが残った場合、翌年に動かせるのは結局また外部の事業者ということになります。
企業がここに関わる理由
採用広報のためですか、と聞かれることがあります。正直に言えば、それを主目的にすると割に合いません。子どもが就職するのは10年以上先です。
私たちが可能性を感じているのは、もっと手前のところです。技術を持った社員が、子どもの前で自分の仕事を説明する機会そのもの。普段の言葉が通じない相手に、自分のやっていることを話す。これは社内の研修では作りにくい状況です。ここに効果があるかどうかは、まだ私たちが検証できていない仮説として書いておきます。
あわせて、地域に「ITで活躍している大人」の実物が現れます。冒頭に書いた、いちばん足りていないものがそれです。
大きな予算は、なくても始められます
自治体・企業の担当の方から最初にいただく質問は、たいてい予算の話です。ここは正直にお伝えしています。予算がなくても、始められる形はあります。
- 場所がある — 公共施設や商業施設の一角を使わせていただけるだけで、費用構造が大きく変わります
- 名前が使える — 後援名義があるだけで、学校への案内と保護者の安心感が変わります
- 窓口になれる — 地域の団体や学校との橋渡しをしていただけると、集客の質が変わります
規模も、数百人のイベントである必要はありません。出張ワークショップのように、機材ごと伺う小さな形から始められます。移動費のかからないオンラインという選択肢もあります。
この3つのどれか一つからでも、地域での開催は形になります。金額の話は、そのあとで構いません。連携の具体的なモデルは協賛・自治体連携のページにまとめています。
協賛・自治体連携のご相談を承っています
場所がある、名前が使える、窓口になれる。このどれか一つからでも、地域での開催は形になります。補助額別のモデルと協賛メニューをまとめています。
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