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失敗が「怖いもの」になる前に、失敗させておきたい

失敗が「怖いもの」になる前に、失敗させておきたい

「間違えたくない」と言って手を止める子がいます。まだ何も始まっていないのに、うまくできない可能性が見えた時点で降りてしまう。この状態になってから「失敗してもいいんだよ」と伝えても、ほとんど効きません。効く時期があるとすれば、失敗がまだ怖いものになっていないうちです。

この記事の要点

  • 失敗を怖がるようになるかどうかは、失敗の回数ではなく、失敗したときに何を失ったかで決まっているように見えます。
  • だから必要なのは「失敗させること」ではなく、失敗しても何も失わない場を先に用意しておくことです。
  • 安全に失敗できる場には、やり直せる・見られていない・比べられない、この3つの条件がそろっています。
  • 声かけだけで変えようとするとうまくいきません。私たちも会場で何度か外しています。

私たちは愛媛・東京・千葉・愛知で、子どもがデジタルの道具に直接手を伸ばす一日をつくっています。会場では毎回、同じ道具を前にして最初の一手を打てない子に出会います。この記事は、その場面で私たちが何を見て、何をやってみて、何を外したかを書いたものです。

「失敗を怖がる」は、失敗の量の問題ではない

この話は、しばしば「最近の子は失敗の経験が足りない」という形で語られます。会場での実感は、少し違います。失敗の回数自体は、どの子もそれなりに積んでいます。差がついているのは、その失敗のときに何が起きたかのほうです。

失敗した瞬間に、周りが見ていた。誰かと比べられた。やり直す時間がなかった。時間内に完成しなかったことが記録に残った。こういう条件が重なった失敗を何度か経験すると、失敗そのものではなく、失敗に付いてくるものが怖くなります。

怖いのは、うまくできないことではありません。うまくできなかったときに、何かを失うことです。

ここを取り違えると、対処もずれます。「失敗を経験させよう」と考えて挑戦の機会を増やしても、その場が同じ条件のままなら、怖さは増えていきます。

商業施設の会場を遠くから写したようす。人が行き来している
同じ体験でも、周りから見えるかどうかで最初の一手の出やすさが変わります。会場の配置はここを気にして決めています。

安全に失敗できる場の、3つの条件

私たちが会場を組むときに実際に見ている条件は3つです。ここがそろっている席では、初めて来た子でも数分で手が動き始めます。

01
すぐやり直せる
失敗が確定しないことが大事です。取り返しがつくと分かっている状態でないと、最初の一手が出ません。
02
見られていない
後ろに人が並んでいるだけで、手は止まります。待ち列が見える配置かどうかで、その席の性質が変わります。
03
比べられない
隣の子の完成品が目に入る配置だと、途中でやめる子が増えます。並べ方だけで結果が変わります。

この3つは、家でもそのまま使えます。特別な道具はいりません。むしろ道具より、いつ・どこで・誰がいる場所でやるかのほうが効きます。

会場であったこと

3Dペンの席で、隣の子が上手に作っているのを見た瞬間に手を止めた子がいました。席を移して、壁側の見えにくい位置に座り直してもらったところ、そこから閉場まで戻ってきませんでした。声はほとんどかけていません。変えたのは位置だけです。

3つの条件を、家でつくる型

家庭でできる形にすると、こうなります。順番に意味があります。

  1. 材料を、余るほど用意する1枚しかない紙、1個しかない材料は、それだけで失敗を確定させます。安いものでいいので、多めに置いておきます。「もう1回やっていい」が目に見えている状態をつくるのが目的です。
  2. 途中を見に行かないできあがるまで見ない、と先に宣言してしまうのがいちばん確実です。関心がないのではなく、途中は見ないと決めていることを伝えます。呼ばれたら行きます。
  3. 完成品を、他の誰かと並べない兄弟の作品を横に置いて写真を撮る、といったことをやめます。悪気なくやってしまいがちですが、比べられる場だと学習した子は、次から手を抜きます。

道具より先に決まること

この3つは、どれもお金がかかりません。逆に、良い教材を買っても、この3つが崩れている場所では手が動かないことのほうが多いです。私たちが会場で最初に決めるのも、道具ではなく机の向きです。

失敗のあとに、何を言うか

声かけは万能ではありませんが、外しやすいところでもあるので書いておきます。

場面 効きにくい言い方 会場で使っている言い方
うまくいかなかった直後 「失敗してもいいんだよ」 「今のところ、何が起きたか教えて」
途中で投げ出したとき 「せっかくここまでやったのに」 「置いといて、あとで戻ってきてもいいよ」
できた作品を見せに来たとき 「上手だね」 「これ、どうやったの」
他の子と比べて落ち込んだとき 「あの子はあの子、あなたはあなた」 「さっきのやつ、最初と比べてどう変わった」

共通しているのは、評価を返さないことです。「いいんだよ」も評価のひとつです。いいかどうかを大人が決める枠組みが残っているかぎり、子どもは失敗を評価の対象として扱い続けます。事実を聞く形にすると、この枠組みが外れます。

学校では、失敗が残ってしまう

ここまで書いてきた3つの条件を、学校の中でそろえるのは、構造的にかなり難しいことです。先生方が悪いという話ではなく、仕組みの問題です。

授業には時間割があるので、やり直しの回数に上限があります。教室には同級生がいるので、見られていない状態はつくれません。そして成績や評価がある以上、比べられない状態にもなりません。3つの条件が3つとも成立しにくいのが、教室という場所です。

私たちが出張授業で呼ばれるときも、この制約は同じようにかかります。45分の中で、全員に同じ体験をしてもらう必要がある。だから学校でやる回と、休日のイベントでやる回では、同じ道具を使っていても組み方を変えています。

条件 教室での成立しにくさ 一日のイベントでできること
すぐやり直せる 時間割で区切られ、やり直しの回数に上限がある 滞在時間のあいだ、何度でも戻ってこられる
見られていない 同じ教室に全員がいる。手元が周囲から見える 席の向きと間隔を、見えにくくなるように配置できる
比べられない 提出物や評価が残る。同じ課題を同時に進める 作品を回収しない。持ち帰ってそれで終わりにできる

だから私たちは、学校の代わりをやろうとはしていません。教室では成立しにくい条件を、外側で一日だけ用意する。役割が違うと考えて分けています。

私たちが外したこと

うまくいかなかったやり方も書いておきます。同じ趣旨のことを、言い方を変えて何度か試して、いずれも外しました。

ひとつめは、開始時に「ここは失敗してもいい場所です」と宣言した回です。宣言そのものが「失敗は本来まずいものだ」という前提を子どもに伝えてしまい、逆に緊張させました。今は言っていません。

ふたつめは、失敗した子をわざと褒めた回です。「失敗できたのがえらい」と言うと、失敗が新しい評価項目になるだけでした。褒められるために失敗してみせる子まで出てきて、これは完全に設計ミスでした。

みっつめは、失敗しやすい難しい課題を用意した回です。全員が失敗しましたが、全員が「これは無理な課題だった」と結論づけて終わりました。難易度で失敗を作っても、自分の失敗として扱われません。

いまのところの結論

失敗を話題にした施策は、私たちが試した範囲では全部外しました。効いたのは、失敗を話題にしないまま、失敗しても損しない条件を静かに整えることだけでした。ここは私たちも試行錯誤の途中です。

この記事が向かないケース

お子さんが今、学校や人間関係のことで消耗しているときに、家庭でまで挑戦の機会を増やす必要はありません。安全に失敗できる場をつくるという話は、余力があるときのものです。

また、失敗を怖がること自体を問題として扱う必要もないと考えています。慎重さは、多くの場面で本人を守っています。困っているのは本人ではなく周りの大人のほう、という場合も少なくありません。

私たちが会場でやっていること

デジタルキッズクラブは教室を持たず、イベントと、学校や施設への出張・オンラインのワークショップだけで活動しています。地域にITで活躍する大人が少なく、子どもがエンジニアという進路を選びにくい。その手本がいない状態を埋めたくて続けています。

会場では、失敗が目に見える道具をあえて置いています。3Dペンは立体を空中に描くので、思ったとおりにはまず描けません。ドローン操縦も、最初は必ずどこかにぶつけます。どちらも、失敗した瞬間に何が起きたかが自分で分かる道具です。分かるから、次の一手が出ます。

そのうえで、待ち列が席から見えないようにする、隣との間に距離を取る、材料を多めに置く、といったことを毎回やっています。オンラインの回では、そもそも他の子の画面が見えないので、この条件は自然にそろいます。会場に来られない場合や、人の多い場所が苦手なお子さんには、そちらのほうが向くことがあります。

デジタルキッズクラブの横断幕が掛かった会場
会場では「途中でやめて戻ってきてもいい」を運用で担保しています。席を離れても、荷物はそのままにしておけます。

当日、保護者の方にお願いしていること

会場では、受付でひとつだけお願いをしています。お子さんの手元を、後ろから覗き込まないでくださいというお願いです。

ご心配なのは分かりますし、写真も撮りたくなると思います。ただ、後ろに親が立った瞬間に手が止まる子は、私たちが思っていたよりずっと多いです。これは信頼の問題ではなく、見られている状態そのものの影響です。少し離れた場所から見ていただくだけで、その日の滞在時間が変わります。

もうひとつ、その場で作品の出来を評価しないこともお願いしています。「上手だね」と言われた子は、次の一手を出来のいい方向に寄せ始めます。レーザー彫刻のように、仕上がりがはっきり見える体験ほど、この影響が出やすいと感じています。

判断を1枚に落とす

  • 失敗の回数を増やすより先に、失敗しても何も失わない条件を整える。
  • 条件は3つ。すぐやり直せる・見られていない・比べられない。
  • 家では、材料を多めに用意する/途中を見に行かない/作品を並べない。
  • 声かけは評価を返さない形にする。「いいんだよ」も評価にあたる。
  • 失敗を話題にした施策は効きにくい。静かに条件を変えるほうが早い。
  • 本人が消耗しているときは、この話をいったん置く。

親がやらなくていいこと

まず、失敗の機会をわざわざ設計する必要はありません。条件さえ整っていれば、子どもは勝手に失敗します。

次に、失敗したあとに教訓を引き出す必要もありません。「今回何を学んだ」と聞かれると、子どもは大人が求める答えを探し始めます。私たちも会場でこの質問はしていません。

そして、親が上手である必要もありません。むしろ親が失敗して見せるほうが早いです。同じ道具を大人が触ってうまくいかない様子は、どんな言葉より効きます。

1. 場所を決める
見られない、比べられない位置を選びます。リビングの真ん中は不利なことが多いです。
2. 材料を余らせる
やり直せることが目に見えている状態にします。ここまでが準備です。
3. 途中は見ない
見ないと先に伝えます。呼ばれたときだけ行きます。
4. 終わったら、事実だけ聞く
評価も教訓もいりません。「どうやったの」だけで十分です。

よくある質問

Q. 何歳ごろから、失敗を怖がるようになりますか。

会場で見ている範囲では、小学2年生あたりから「うまくできないなら最初からやらない」という反応が出はじめます。ただ個人差が大きく、年齢よりも、それまでにどんな場で失敗してきたかの影響のほうが大きいと感じています。

Q. 「失敗してもいいんだよ」と言うのは逆効果ですか。

逆効果というより、効きにくいという感覚です。言葉には、失敗が本来はまずいものだという前提が残ります。言うのをやめる必要はありませんが、それだけでは場の条件は変わりません。

Q. 兄弟がいると、比べないのは難しいのですが。

同じ課題を同じ時間にやらせない、という一点だけでもかなり変わります。作品を並べて写真を撮らない、というのも効きます。完全になくすのは難しいので、目に見える比較を減らすところから始めるのが現実的です。

Q. 失敗したあと、何を学んだか聞いたほうがいいですか。

私たちは聞いていません。聞かれた子は、大人が求めている答えを探し始めてしまいます。「どうやったの」と事実を聞くほうが、結果的に本人の中に残るようです。

Q. デジタルの道具でなくても構いませんか。

構いません。3つの条件がそろっていれば、料理でも工作でも同じです。私たちがデジタルを使っているのは、失敗した瞬間に何が起きたかが本人に見えやすいからで、それ以外の理由ではありません。

この記事を書いた人

デジタルキッズクラブ(運営:lanitech合同会社)/西脇 靖紘

デジタルキッズクラブ 代表。愛媛・東京・千葉・愛知で、子どもがデジタルの道具に直接手を伸ばす一日一日をつくっています。これまでに延べ1,000名以上の子どもと保護者に体験を届けてきました。愛知淑徳大学ではAI関連科目の非常勤講師も務めており、日々AI×教育と向き合っています。これら記事の内容は、私たちの現場での運営や観察にもとづいています。

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