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子どもの体験格差は、所得よりも「距離」で開いている

子どもの体験格差は、所得よりも「距離」で開いている

子どもの体験格差の話をするとき、議論はほぼ必ず所得の話になります。習い事に払えるかどうか、旅行に行けるかどうか。ここは調査も進み、支援の設計も進みました。

ただ、私たちが各地で子ども向けのイベントやワークショップを開いてきて実感しているのは、所得を揃えても残る差があるということです。無料で、近所で開いても、来る地域と来ない地域があります。そこで効いているのが「距離」です。

この記事は、自治体や企業で子ども向け事業の設計に関わる方に向けて書いています。距離を3つに分けて、それぞれに何が効いたか、何が効かなかったかを、実際の運営で見えた範囲で書きます。

所得で説明できるところと、できないところ

まず、所得の影響が小さいという話ではありません。CFC代表の今井悠介氏による『体験格差』(講談社現代新書)では、世帯収入によって自然体験が約1.7倍、旅行が約1.8倍の差になると示されています。ここは動かしがたい事実です。

注目したいのは同じ調査の別の数字です。無料の地域行事でも、約1.3倍の差がついています。お金が要らない行事にすら差が出るということは、費用以外の何かが参加を止めているということになります。

私たちが現場で見てきたかぎり、その「何か」の多くは距離です。ただし、地図の上の距離だけを指しているわけではありません。

距離は3種類ある

距離の種類 現れ方 効いた打ち手
物理的な距離 会場まで行く手段がない 開催地を分散する/出張・オンラインで行く
情報の距離 そもそも開催を知らない 学校を通じた配布
心理的な距離 「うちには関係ない」と分類される 知っている場所・知っている人が関わる

予算がつきやすいのは1行目です。会場を増やす、送迎を出す。しかし実際に参加者数を左右したのは、私たちの経験では2行目と3行目でした。

物理的な距離:会場を増やしても、届く範囲はあまり広がらない

最初に取り組みやすいのが物理的な距離です。会場を増やす、開催地を分散する。私たちも複数の市で開いてきました。

ただ、ここには思ったほど効かない事情があります。小学生の行動範囲は、保護者が連れて行けるかどうかでほぼ決まります。つまり、会場を少し近づけても、その日に連れて行ける大人がいなければ参加者は増えません。縮めるべきなのは会場までの距離ではなく、保護者が動くための手間のほうです。

実際に効いたのは、会場そのものより時間帯と曜日でした。土日に幅のある時間帯で出入りできるようにしておくと、ほかの予定の合間に立ち寄れます。逆に、時間を細かく区切った完全予約制にすると、参加のハードルが上がり、もともと熱心な層だけが残ります。

情報の距離:会場ごとに、届く経路がまるで違った

愛媛県の「地域DX実践支援業務」の一環として、2025年に県内3会場で子ども向けのイベントを開きました。同じ主催体制、ほぼ同じ内容、同じ時期です。それでも、参加者が何を見て来たかは会場ごとにはっきり分かれました。

松山では、SNS広告経由が半数以上を占めました。一方、新居浜と西予では小学校で配ったチラシが中心で、西予では認知経路の64%がチラシでした。

これは事業設計に直結する話です。都市部の感覚のまま広告予算を組むと、地方の会場では届きません。逆に、学校配布の許可を取る手間を惜しむと、そこにしか届かない層をまるごと落とします。広告費よりも、教育委員会や学校との調整に人の時間を割いたほうが効く地域があるということです。

心理的な距離:「自分には関係ない」という分類

いちばん厄介なのがこれです。案内が届いていても、参加しない。理由を聞くと、「うちの子はそういうタイプじゃないので」という形で返ってきます。

この分類は、子ども本人よりも先に大人の側で起きています。そして、その背景には、身近にその仕事をしている大人がいないという事情があります。見たことのない職業は、選択肢として想像されません。

ここを動かすのに効いたのは、内容の魅力ではなく場所と人でした。知っているお寺、いつも行く施設、顔を知っている地域の大人。会場が「行ったことのある場所」であるだけで、心理的な距離はかなり縮みます。

うまくいかなかったこと

成功例だけ書くのは不誠実なので、割れた数字も出します。先ほどの3会場で「また参加したい」と答えた割合は、松山と新居浜が90%以上だったのに対し、西予は73%でした。

3会場をまとめて「満足度90%以上」と書くことはできます。実際、そう書かれた資料も世の中には多いと思います。ですが、いちばん学びがあるのは低かった会場のほうです。

もうひとつ、はっきり失敗した取り組みがあります。地域に常設の拠点を置いた時期がありました。無料で、いつでも来ていい場所です。ところが、日によっては来館が数組という状態が続きました。いつでも開いている場所は、行く理由が発生しません。結果として、その拠点は閉じています。

この失敗から学んだのは、距離を縮める手段として「常設」は思ったほど強くないということでした。それよりも、日付が決まっている一日のほうが人は動きます。

常設ではなく、一日をつくるという選択

デジタルキッズクラブは、いま教室を持っていません。愛媛・東京・千葉・愛知で、イベントと、学校や施設への出張、そしてオンラインのワークショップという形で活動しています。運営はlanitech合同会社です。

この形にしているのは思想の問題ではなく、いま書いた失敗の結果です。常設の拠点で毎日待つより、機材ごと出向くほうが、距離のある地域には届きます。移動が難しい相手にはオンラインでつなぎます。

私たちが活動している理由も、この距離の話と地続きです。地域にITで活躍する大人が少なく、子どもがその進路を思いつけない。答えを教える場ではなく、手を動かして考える場を、その子の生活圏の中に一日だけ立てる。いまのところ、それがいちばん距離を縮められる形だと考えています。

最初の1年で測っておくべきこと

最後に、事業設計の実務の話をひとつだけ。来場者数の次に測るべきなのは、参加者がどこから来たかと何を見て知ったかの2つです。

この2つが取れていれば、翌年度に何にお金を移すかが判断できます。逆にここを取っていないと、来場者数だけが残り、増えたか減ったかの議論しかできなくなります。当日のアンケートに2問足すだけで済む話です。

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この記事を書いた人

デジタルキッズクラブ(運営:lanitech合同会社)/西脇 靖紘

デジタルキッズクラブ 代表。愛媛・東京・千葉・愛知で、子どもがデジタルの道具に直接手を伸ばす一日一日をつくっています。これまでに延べ1,000名以上の子どもと保護者に体験を届けてきました。愛知淑徳大学ではAI関連科目の非常勤講師も務めており、日々AI×教育と向き合っています。これら記事の内容は、私たちの現場での運営や観察にもとづいています。

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