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電子楽器は音楽が苦手な子にこそ向く|苦手の中身3つと選び方

電子楽器は音楽が苦手な子にこそ向く|苦手の中身3つと選び方

会場でいちばん意外な反応が出るのが、電子楽器のブースです。「うちの子、音楽は苦手で」と言いながら連れてこられた子が、いちばん長く居座ることがよくあります。楽譜が読めないこと、リズム感がないこと、歌が苦手なこと。ここでは、そのどれも障害になりません。

この記事の要点

  • 音楽が苦手という感覚の多くは、音そのものではなく「読む・覚える・間違えると止まる」という手続きのほうに原因があります。
  • 電子楽器は、その手続きを飛ばして音から入れます。押せば鳴る、という一点で入口の高さがまったく違います。
  • 向いているのは、間違いを人前でさらすのが苦手な子です。逆に、すでに楽器を習っている子には物足りないこともあります。
  • うまくいかなかったのは、全員で合わせようとしたときでした。合わせる要求が入った瞬間に、苦手意識のある子から手が止まります。

この記事は、各地で子ども向けのデジタル体験を開いている立場から書いています。音楽教育の専門家ではありません。ただ、初めて電子楽器に触る子を毎回まとまった人数見ているので、どこでつまずき、どこで火がつくかについては、それなりの観察があります。家庭で何かを買う前に読んでいただく想定で書きました。

商業施設の会場で行われている体験ブースの遠景
音が出るブースは、離れたところから様子を見ている子が多い。その距離が縮まる瞬間が観察の対象です。

「音楽が苦手」の中身を分解する

音楽が苦手だと言う子に、何が苦手なのかを聞くと、返ってくる答えはだいたい3種類です。そして、そのどれも音を出すこと自体ではありません。

苦手の中身 実際に起きていること 電子楽器での扱い
楽譜が読めない 音を出す前に、記号を音に変換する作業が入る。ここで詰まると、音にたどり着かない。 楽譜を使わない。押した場所がそのまま音になるので、変換の工程が消える。
間違えると止まってしまう 教室や合奏では、間違いが周囲に聞こえる。止まることが目立つ構造になっている。 ひとりで音量を下げて試せる。間違いが誰にも聞こえない状態をつくれる。
手や口が思いどおりに動かない リコーダーや鍵盤は、運動の精度をかなり要求する。技能の壁が最初に来る。 1本の指でも成立する音の出し方がある。運動の壁を後ろにずらせる。

つまり、苦手だと思われているものの大半は音楽そのものではなく、音楽の教わり方に対する苦手でした。ここを分けておくと、家庭でできることがはっきりします。

押せば鳴る、という一点がどれだけ効くか

電子楽器の最大の特徴は、練習しなくても最初から音が出ることです。当たり前に聞こえますが、ここが決定的です。

リコーダーは息の入れ方で鳴らない。ヴァイオリンは弓の角度で鳴らない。ピアノは鳴りますが、弾きたい曲になるまでの距離が遠い。最初の音が出るまでにかかる時間が、苦手意識をつくる最大の要因だと考えています。

電子楽器はここが0秒です。触れば音が出る。しかも音色を切り替えれば、まったく違う世界の音が出る。この「切り替えて試す」という動きは、楽器の練習というより、実験に近い形をしています。だから、音楽が苦手でも理科が好きな子に刺さります。

音楽の入口が、演奏ではなく実験になった。電子楽器が子どもに向いているのは、たぶんここです。

会場で実際に起きていること

私たちの体験メニューには「電子楽器セッション」という枠があります。説明文は「楽器を習っていなくても、音は出せる。」という一行だけです。ここで起きることには、はっきりした順番があります。

  1. 最初の30秒は、めちゃくちゃに押す全員がこれをやります。止めません。音が出るという事実を体で確認している時間です。ここで「ちゃんと弾いて」と言うと、その日はもう戻ってきません。
  2. 次に、音色を全部試す押す場所より、音の種類のほうに興味が移ります。同じ操作で違う結果が出るという構造を面白がっている段階で、これも止めません。
  3. そこから、繰り返しが始まる気に入った音を見つけた子は、同じフレーズを何度も鳴らし始めます。ここからが音楽です。だいたい5分から10分かかります。

重要なのは、この順番を飛ばせないことです。大人はつい3番目から始めさせようとしますが、1と2を省略すると、3は起きません。

向いている子・向いていない子

向いている人前で間違えるのが苦手な子音量を絞る、ヘッドホンを使う、という逃げ道があります。失敗が公開されない状態で試せることの価値は、想像よりずっと大きい。学校の音楽で固まってしまう子ほど、ここで動きます。
向いている仕組みを知りたがる子音がどうやって作られているかに興味が向くタイプ。音色を分解したり重ねたりする操作は、そのまま理科の実験と同じ構造です。曲を弾くことに興味がなくても成立します。
向いていないすでに楽器を習っている子物足りなく感じることがあります。技能がある子にとっては、操作の自由度が制約に見える。もちろん楽しむ子もいますが、期待値は下げておいたほうが無難です。
条件つき音に敏感な子突然大きな音が出るのが苦手な場合があります。最初に音量を小さくしておく、ヘッドホンを先に渡す、という配慮で参加できることが多い。会場では先に声をかけていただければ調整します。

うまくいかなかったこと

現場から

ある回で、最後に全員で合わせる時間を作ったことがあります。セッションという名前をつけている以上、合わせたほうが盛り上がるだろうと考えたわけです。結果はよくありませんでした。合わせるという要求が入った瞬間に、音楽が苦手だと言っていた子から順に手が止まりました。

原因ははっきりしていて、合奏は「間違いが聞こえる」構造そのものだからです。私たちが電子楽器で外していたはずの壁を、最後に自分で立て直していました。いまは、合わせる時間を必須にしていません。やりたい子だけが自然に重なっていく形にしています。

もうひとつの失敗

「何の曲を弾きたい?」と聞いたことも失敗でした。曲名を聞かれると、知っている曲のリストから選ぶ作業になり、弾けるかどうかの判断が入ります。そこで止まる子がかなりいました。いまは曲の話をしません。「どの音が好き?」だけ聞きます。こちらは全員が答えられます。

家でやるなら、買う前に確かめること

電子楽器は、安いものから高いものまで幅がとても広い機材です。順番を間違えると使われないまま終わるので、確かめる順番を書いておきます。

1. まず、手持ちの端末のアプリで試すタブレットやパソコンには、無料で使える音源アプリがあります。買う前にここで反応を見てください。画面を触ると音が出る形でも、最初の30秒に起きることは同じです。
2. 音色を切り替えて遊ぶかを見る曲を弾こうとするかどうかは見なくて大丈夫です。音を切り替えて試す動きが出たら、この方向は合っています。出なければ、機材を入れても同じです。
3. 続いたら、実物の鍵盤やパッドを入れる画面より、押した感触があるほうが長く続きます。ここまで来てから買えば、まず失敗しません。高価なものは要りません。壊れても惜しくない価格帯から始めてください。

学校や施設でやる場合

学校の授業や、公民館などの行事に組み込みたいというご相談もあります。電子楽器は機材を運べば成立するので、会場の制約は比較的ゆるいほうです。必要なのは電源と机、人数分のスペースくらいです。

ただし、電子楽器はその場でしか成立しない体験に分類しています。3Dモデリングや生成AIのように画面の中で完結するものはオンラインワークショップでも同じ密度で届けられますが、音は違います。同じ部屋で鳴っていることに意味があるので、こちらは出張ワークショップのほうでお受けしています。

デジタルキッズクラブののれんが掛かった会場
音の出る体験は、会場の中で自然と人が集まる場所になります。導線を考えるときの材料にもなります。

年齢で、入口を変える

対象は未就学児から中学生までで、メインは小学1〜4年生です。電子楽器はとくに年齢の幅が広く取れる体験ですが、届け方は変えています。

年齢の目安 成立しやすい形 避けたほうがいいこと
未就学 押すと音が出る、という因果関係だけで十分成立する。音色の切り替えも喜ぶ。 リズムを合わせる要求。まだ体が追いつかず、失敗体験になる。
小学1〜2年生 好きな音を見つけて、繰り返し鳴らす。ここまでで一区切り。 曲名を聞くこと。弾けるかどうかの判断が入り、手が止まる。
小学3〜4年生 音を重ねる、順番に並べる。作る方向へ移りやすい時期。 上手い下手の評価。いちばん反応が出るぶん、いちばん効いてしまう。
小学5年生以上 録音して聞き返す、構成を考える。制作としての面白さが出る。 初歩的すぎる説明。すぐ退屈します。先に自由に触らせるほうが早い。

どの種類から始めるか

電子楽器とひとことで言っても、形はかなり違います。どれが良いというより、どの苦手を回避したいかで選ぶものが変わります。会場でも複数の形を置いていて、子どもによって手が伸びる先がはっきり分かれます。

形 向いている子 気をつける点
鍵盤タイプ すでに音の高さの感覚がある子。ドレミを知っていると、すぐ曲に向かえる。 ピアノの記憶がある子には、練習の連想が働くことがある。苦手意識の原因が鍵盤なら避ける。
パッド・ボタンタイプ 音の高さより、リズムや音色に興味が向く子。叩けば鳴るので運動の壁が低い。 音階の感覚は育ちにくい。そこを期待しないほうがよい。
画面(タブレット)タイプ まず試したい段階の子。無料で始められて、音色の数が圧倒的に多い。 押した感触がないので、飽きるのが早い傾向がある。入口としては優秀。
録音・重ね録りができるもの ひとりで完結したい子。人前で演奏しなくても作品になる。 操作が増えるぶん、低学年には説明が要る。まず単体で鳴らしてから。

迷ったら、画面タイプから始めるのがいちばん損が小さい選択です。費用がかからず、合わなければそこで終われます。機材を買うのは、続いたことを確認してからで十分に間に合います。

ひとつ補足すると、ヘッドホンは早めに用意しておくと効きます。周囲に聞こえないという条件が、そのまま試行回数に効いてくるからです。家の中で気兼ねなく試せる状態をつくることが、機材そのもののグレードより先に来ます。実際、会場でもヘッドホンを渡した瞬間に手が動き出す子がいます。

やらなくていいこと

  • 先に楽譜の読み方を教えること。電子楽器の入口では、まったく必要ありません。
  • 曲を完成させること。音を探している段階で完成を求めると、探すのをやめます。
  • 音楽の成績と結びつけること。学校の評価とは別のものとして置いたほうが、伸びます。
  • 高価な機材から始めること。壊せないものは、実験の対象になりません。
  • 兄弟で同時に触らせること。音が混ざると、どちらも自分の音がわからなくなります。順番に。

結局、何が育つのか

正直に書くと、電子楽器の体験で音楽の技能が育つとは考えていません。一日触っただけで演奏ができるようにはなりません。

育っているのは、もっと手前のところです。音を出すという行為に対する心理的な距離が縮まる。自分は音楽が苦手だ、という自己評価が一回外れる。この効果はかなり大きく、しかも他の分野に波及します。苦手だと決めていたものが、やり方を変えたらできた。この経験自体が持ち帰るものです。

私たちが体験を通して置いている4つの能力のうち、電子楽器がいちばん強く働くのは創造力と自己探究力です。どんな音が好きかは誰にも教われません。自分で探すしかない。そういう問いに向き合う時間として、この体験を置いています。

よくある質問

Q. 楽器の経験がまったくなくても参加できますか。

A. できます。むしろ経験がないほうが自由に触れます。楽譜は使いませんし、事前の練習も必要ありません。押せば音が出るところから始めます。

Q. 大きな音が苦手な子でも大丈夫ですか。

A. 事前にお声がけいただければ、音量を下げた状態から始めたり、ヘッドホンをお渡ししたりといった調整をします。無理に参加していただく必要はありません。

Q. 何歳から参加できますか。

A. 未就学児から中学生までを対象にしていて、メインは小学1〜4年生です。未就学のお子さんは、押すと音が出るという因果関係だけで十分楽しめます。

Q. オンラインでも受けられますか。

A. 電子楽器は同じ部屋で音が鳴っていることに意味があるため、オンラインではお受けしていません。現地に伺う出張ワークショップか、各地で開くイベントでの体験になります。

Q. 家庭で機材を買うべきでしょうか。

A. まずは手持ちのタブレットやパソコンの無料アプリで試してみてください。音色を切り替えて遊ぶ動きが出たら、そこから実物を検討しても遅くありません。

この記事を書いた人

デジタルキッズクラブ(運営:lanitech合同会社)/西脇 靖紘

デジタルキッズクラブ 代表。愛媛・東京・千葉・愛知で、子どもがデジタルの道具に直接手を伸ばす一日一日をつくっています。これまでに延べ1,000名以上の子どもと保護者に体験を届けてきました。愛知淑徳大学ではAI関連科目の非常勤講師も務めており、日々AI×教育と向き合っています。これら記事の内容は、私たちの現場での運営や観察にもとづいています。

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