
子どもがゲームや動画に向かう時間が長い。声をかけても生返事しか返ってこない。この状態を前にして、デジタルはこの子から何かを奪っているのではないか、と考えたことのある方は多いと思います。私たちも、その問いに簡単な答えを持っているわけではありません。
ただ、イベントの現場で子どもたちを見ていると、一つだけはっきりしていることがあります。同じ「デジタルに向かっている時間」でも、中身がまったく違う2種類があるということです。片方は放っておくと時間だけが溶けていき、もう片方は放っておくと勝手に深くなっていく。外から見た姿は、どちらもほとんど同じです。
この記事では、心配な状態をどう見分けるか、そして「取り上げる」以外にどんな手があるのかを整理します。結論から書くと、時間を減らすより、向かう先を1つ足すほうが現実的です。減らすのは家庭内の交渉になりますが、足すのは交渉になりにくいからです。
この記事の要点
- ゲーム依存が心配なとき、まず見るのは時間の長さではなく、生活のほかの部分が削られているかどうかです。
- 医学的な診断名としての「ゲーム行動症(ゲーム障害)」には、おおむね12か月という継続期間の目安があります。心配即診断ではありません。
- デジタルに向かう時間には「使う時間」と「つくる時間」があり、後者は増えても生活を圧迫しにくい傾向があります。
- 取り上げる前にできることが3つあります。ただし、生活や心身に明らかな影響が出ている場合は専門の窓口が先です。
「奪う」と感じるとき、実際に何が起きているのか
デジタルが子どもから何かを奪っている、という感覚は具体的です。外で遊ばなくなった。話しかけても返事が短い。前は好きだったことをやらなくなった。この感覚自体は、たいてい正確だと思います。実際に何かが減っているから、そう感じるわけです。
ここで大事なのは、減ったものが何かを、時間ではなく項目で見ることです。1日の画面時間が何時間かという数字は、比較の材料にはなりますが、その子の状態を説明しません。同じ3時間でも、睡眠を削って3時間なのか、もともと何もしていなかった3時間なのかで、意味はまったく違います。

心配の度合いを見分ける
ご家庭で最初に確かめられるのは、次の項目です。時間の長さではなく、ほかのものが削られているかどうかだけを見ます。
- 睡眠時間が目に見えて減っている
- 食事を抜く、あるいは画面の前でしか食べない
- 学校や園に行きたがらない日が増えた
- 以前は好きだった別の遊びを、誘っても断るようになった
- やめるように言われたときの反応が、以前より激しい
- 家族以外の人と話す機会が、目に見えて減った
このうち複数が数か月以上続いているなら、時間の管理の話ではなく、相談の話になります。逆に、どれも当てはまらず「とにかく時間が長い」だけであれば、あわてて取り上げる必要はおそらくありません。
診断名についての注意(2026年9月時点)
「ゲーム障害」は WHO の国際疾病分類 ICD-11 に収載されており、日本精神神経学会は日本語病名として「ゲーム行動症」を用いています。同学会の解説によれば、診断にはゲーム行動が長期(たとえば12か月)継続していることが必要で、症状と影響が深刻な場合はそれより短くても診断が可能とされています。
つまり、数週間の熱中はこの枠に入りません。私たちは医療機関ではないので診断はできませんし、この記事も診断の代わりにはなりません。気になる場合は、お住まいの自治体の相談窓口や専門の医療機関にご相談ください。
使う時間と、つくる時間
ここからが、私たちが現場で見てきた話です。子どもがデジタルに向かっている時間は、大きく2つに分かれます。この区別は画面の見た目からは分かりません。
| 見る観点 | 使う時間 | つくる時間 |
|---|---|---|
| 次に何が起きるか | 向こうが決める | 自分が決める |
| やめどき | 外から切られるまで終わらない | できたところで自然に切れる |
| うまくいかないとき | やり直しても内容は同じ | やり方を変える必要が出る |
| 終わったあと | 手元に残らない | 見せられるものが残る |
| 人に話すとき | 出来事を話す | 自分がやったことを話す |
見分け方でいちばん確実なのは、最後の行です。その日やったことを本人に聞いてみて、「何が起きたか」を話すか、「自分が何をしたか」を話すか。後者の話し方になっている時間は、多くの場合つくる時間です。
ゲームの中にもつくる時間はあります。建物をつくる、仕掛けを組む、仲間と段取りを決める。だから「ゲーム=使う時間」ではありません。逆に、つくる道具を渡しても、決められた手順をなぞるだけならそれは使う時間になります。道具の名前ではなく、決定権がどちらにあるかで分かれます。
デジタルが奪うのではなく、決定権のない時間が長いことが、生活を削ります。
取り上げる前にできる3つのこと
時間を減らす方向の交渉は、たいてい長引きます。減らすと約束させても守られず、守られないことで関係が悪くなり、結果として話ができなくなる。この順路は、ご家庭からよく聞きます。
3つとも、時間を減らすことを目的にしていません。結果として減ることはありますが、そこを目標にすると交渉に戻ってしまいます。増やす話のほうが、子どもは乗ってきます。
やってみると、順番はこうなります
ルールを決めるなら、こう決める
時間のルールをまったく置かないほうがいい、という話ではありません。置くなら、守れる形にします。私たちがご家庭に勧めているのは次の3点です。
- 時間ではなく、場所と時間帯で決める「1日2時間まで」は計測と交渉が必要になります。「寝室には持ち込まない」「食卓では見ない」は計測が要りません。守れたかどうかが一目で分かるルールのほうが続きます。
- 子どもと一緒に決めて、紙に書く決め方に本人が入っていないルールは、破ることが抵抗の手段になります。決める場に入っていれば、破ったときに話し合いに戻れます。
- 見直す日をあらかじめ決めておく「1か月後にもう一度話す」と決めておくと、途中の不満がその日まで持ちます。決めっぱなしにしないことがいちばん効きます。
うまくいかなかったこと
デジタルキッズクラブは愛媛・東京・千葉・愛知でイベントと出張のワークショップをやっています。私たちは教室を持っていないので、一人の子と会えるのはたいていその一日だけです。その前提で、初期にやってみて外したことがあります。
会場で「ゲームばかりしていて困っている」と相談されたとき、しばらくの間、私たちはゲームより高級なものを勧める、という失敗をしていました。プログラミングのほうが将来役に立つ、こちらのほうが創造的だ、という言い方です。
ここで間違えました
その言い方をすると、子ども本人は黙ります。自分が好きなものを下に置かれたことは、はっきり伝わるからです。そして黙ったあとは、こちらのすすめるものにも手を伸ばしません。保護者の方は納得されるのに、当の子どもが動かない。しばらく、その理由が分かりませんでした。
いまは逆から入ります。その子がいま好きなものの話を先に聞いて、そこで本人がやっている工夫を見つけます。工夫は必ずあります。その工夫と地続きのところに道具を置くと、子どもは自分から手を伸ばします。ゲームが好きな子に3Dモデリングが刺さることがあるのは、ゲームが悪いからではなく、その子がすでに空間を組み立てる練習をしているからです。
現場で見たこと
ゲームの話しかしない、と保護者の方が心配されていた子が、3Dモデリングのブースで2時間近く動かなかったことがありました。本人が何を作っていたかというと、いつも遊んでいるゲームに出てくる建物でした。寸法や見えない裏側まで覚えていて、こちらが驚かされました。ゲームを見ていた時間は、その子にとって観察の時間でもあったわけです。
私たちがやっているのは、そういう「地続きの入口」を一日つくることです。どんな体験があるかは3Dモデリングの体験ページや生成AIの体験ページにまとめています。オンラインでできるものもあります。

向かないケース:この記事が当てはまらないとき
ここまでの内容は、生活がひととおり回っている前提の話です。次の場合は当てはまりません。
- 睡眠や食事に明らかな影響が出ている。入口を足す話ではなく、相談窓口の話です。
- 学校や園に行けない日が続いている。背景はデジタルだけとは限りません。別の要因を含めて相談してください。
- やめさせようとしたときに、暴力や自傷につながる反応がある。家庭内で解決しようとせず、専門の窓口に相談してください。
- 課金が家計に影響する規模になっている。これは別の問題として先に手当てが必要です。
- 本人がすでに苦しさを訴えている。この場合、入口を増やすのは負担になります。
このうちどれかに当てはまるなら、この記事の3つの手当ては後回しでかまいません。順番として、生活のほうが先です。
やらなくていいこと
結局、奪うのか、ひらくのか
私たちは、デジタルが子どもをひらく、と言い切れる立場にはいません。ひらいている子も、削られている子も、どちらも同じ会場で見ています。道具そのものは、どちらにも転びます。
分かれ目にあるのは、その子がその時間の中で何かを決めているかどうかです。決めている時間は、長くても生活を壊しにくい。決めていない時間は、短くても手ごたえが残らない。ここまで書いてきた3つの手当ては、全部この一点に向けたものです。
AIが日常に入ってきて、答えを出す作業はどんどん早くなりました。誰も先のことは分かっていませんし、私たちも分かっているふりはしません。ただ、自分で決めた経験を持っている子のほうが、道具が変わっても困りにくいだろう、というところには賭けています。
よくある質問
Q. 1日何時間までなら大丈夫ですか。
一律の目安はお出ししていません。同じ時間でも、睡眠を削っているのか、もともと空いていた時間なのかで意味が変わるからです。時間の数字より、睡眠・食事・登校・ほかの遊びのどれかが削られていないかを見るほうが、判断に使えます。
Q. ゲームを取り上げるのは効果がありますか。
一時的には時間が減ります。ただ、取り上げた理由が本人に納得されていない場合、話し合いの回路が閉じてしまうことが多いようです。取り上げるなら、いつ返すか、何が変わったら返すかを先に決めておくほうが、あとが続きます。
Q. 「ゲーム障害」と診断されるのはどういう場合ですか。
2026年9月時点で、日本精神神経学会の解説によれば、ICD-11 の「ゲーム行動症」は、ゲーム行動が長期(たとえば12か月)継続していることが必要とされ、症状と影響が深刻な場合はそれより短くても診断が可能とされています。判断は医療機関が行うものなので、気になる場合は自治体の相談窓口や専門の医療機関にご相談ください。
Q. つくる側に興味を示しません。どうすればいいですか。
別ジャンルを持ち込んでいる可能性があります。いま好きなものの中で、その子がすでにやっている工夫を探して、その隣に道具を置いてみてください。それでも動かないなら、いまは時期ではないというだけです。あとから戻ってくる子は珍しくありません。
Q. 一日だけの体験に、意味はありますか。
一日で何かが身につくとは考えていません。ただ、「自分にもできた」という事実が一つできると、そのあと家で何を触るかが変わることがあります。私たちが一日をつくっているのは、身につけさせるためではなく、その一つ目をつくるためです。