
学習発表会、文化祭、PTA主催の親子行事、6年生を送る会。行事にデジタル体験を入れたい、という相談をいただくようになりました。ただ、行事は授業と設計の前提がまったく違います。時間枠が動かせない、人数が読めない、会場が兼用。この3つを先に押さえておかないと、当日いちばん困るのは先生方です。
この記事の要点
- 行事に組み込むときは、体験の中身より先に「時間枠・会場・同時に何人動くか」の3つを決めてください。ここが決まると、できる体験は自動的に絞られます。
- 45分、90分、半日、終日で、成立する形はまったく別物です。同じ体験を時間だけ削って入れると、たいてい途中で破綻します。
- 行事でいちばん多い失敗は、内容ではなく待ち時間です。待ち時間の設計を先にやると、体験の選択肢が決まります。
- 学校側に準備していただくことは、実際にはそれほど多くありません。多くの場合、電源と机と、当日の動線を見る先生がいれば成立します。
行事と授業は、設計の前提が違います
「総合の時間に外部講師を呼ぶ」のと「行事にデジタル体験を入れる」のは、同じように見えて別の仕事です。授業であれば、クラス単位で人数が固定され、時間も45分または90分で決まり、教室という同じ条件が繰り返されます。準備も再現しやすい。
行事はそうなりません。学年をまたいで人が動き、保護者が入り、体育館や多目的室を他のプログラムと共有し、進行が押せば体験の時間が削られます。条件が当日まで確定しないのが行事の特徴です。だから、確定しないことを前提にした設計が要ります。

先に決める3つ
この3つが決まっていない段階で体験の中身を決めると、あとから必ず作り直しになります。逆に、3つが決まっていれば、私たちのような外部の事業者に相談したときの話が一度で終わります。
時間枠ごとに、成立する形が違います
| 時間枠 | 成立しやすい形 | この枠では避けたいこと |
|---|---|---|
| 45分(1コマ) | 全員が短時間ずつ交代で触る形。あるいは、代表の子が操作して全体で見る形。準備と片付けを枠外に出せるかが分かれ目です。 | 一人ずつ作品を完成させる形。確実に時間が足りません。 |
| 90分(2コマ) | 作って持ち帰る形が入ります。説明・制作・片付けを、余裕を持って収められます。 | 複数の体験を並べること。移動と説明が二重になり、実質の制作時間が消えます。 |
| 半日(3〜4時間) | 複数の体験をブースで並べ、学年ごとに回る形。行事らしい形になるのはこの規模からです。 | 全員に同じ体験を同じ深さでさせようとすること。回転が破綻します。 |
| 終日 | 保護者や地域の方を入れた公開型。発表の時間を最後に取れます。 | 休憩と昼食の動線を決めずに始めること。ここが詰まると午後が丸ごと崩れます。 |
同じ体験を時間だけ縮めるのではなく、時間に合う別の形を選ぶ。これが行事の設計です。
待ち時間の設計を、いちばん先にやってください
行事で寄せられる不満のほとんどは、体験の中身ではなく待ち時間についてです。並んでいる時間が長いと、体験そのものが良くても「待たされた」という記憶が残ります。私たちも、ここで何度も失敗してきました。
対処は2つしかありません。回転を上げるか、待っている間にやることを用意するかです。回転を上げるには機材の台数を増やすしかなく、台数には予算の上限があります。そうなると現実的なのは、待ち時間を待ち時間にしない設計のほうです。
実際に起きたこと
数百人規模で開催したイベントで、体験の前に長い待ち列ができました。想定を超える来場があったこと自体はありがたいことでしたが、機材の台数が追いつかず、最終的に一部の体験を止めることになり、来場された方にご迷惑をおかけしました。
原因ははっきりしています。台数を「足りるはず」で見積もったことです。以後は、参加する全員が一度は触れる台数を先に確保し、そこから体験の内容を決める順番に変えました。
会場ごとに変わること
学校側に準備していただくこと
「大がかりな準備が必要なのでは」と心配されることが多いのですが、実際にお願いすることはそれほど多くありません。多くの体験は、次の範囲で成立します。
- 電源が取れること(延長コードはこちらで持ち込めます)
- 机と椅子。作業ができる高さであること
- 当日、動線を見てくださる先生が一人いること
- 通信が必要な体験の場合、ネットワークが使えるかどうかの事前確認
- 保護者への案内文に、持ち物と服装を書いていただくこと
逆に、事前に子どもへ何かを教えておいていただく必要は、基本的にありません。初めて触る状態で来ていただくほうが、当日の反応は良くなります。
準備の順番
- 時間枠・会場・人数を確定させるここが決まらないと見積もりも出せません。仮でも構わないので、数字を置いてください。
- 当日の進行表に、体験の前後を書き込む体験だけを切り出して考えないでください。前が押したときに何を削るかまで決めておくと、当日の判断が速くなります。
- 体験の内容を決めるここでようやく中身の話になります。順番を逆にしないでください。
- 保護者への案内文を出す持ち物、服装、写真撮影の扱い。特に写真の扱いは、あとから困らないよう最初に書いておくほうが確実です。
- 前日に、電源と机の位置を実際に見る図面だけで決めると、当日コードが届かないことがあります。一度歩いて確認すると事故が減ります。
うまくいかなかったこと
同じ部屋に複数の体験を並べたことがあります。効率がいいと考えたのですが、結果は逆でした。説明の声が混ざり、並ぶ列が交差し、どこに並べばいいのか分からない状態になりました。運営側の負荷も跳ね上がりました。
いまは、1部屋につき1体験を原則にしています。部屋数が足りない場合は、体験の数を減らします。並べる数を増やすより、ひとつの体験が落ち着いて回るほうが、結果として全体の満足度は高くなります。
現場から
行事で扱いやすいのは、準備が軽くて回転が速い体験です。たとえばドローン操縦は通信環境が要らず、レーンを区切れば同時に複数人が動けます。一方で、床が硬い会場ではマットが必要になるなど、会場によって条件が変わります。
移動が難しい場合や、少人数の学校の場合は、オンラインでの出前授業という形もあります。機材を送る必要のない体験であれば、こちらのほうが日程を合わせやすいことがあります。
学年によって、設計が変わります
同じ体験でも、学年が違えば必要な手当てが変わります。私たちが主に会っているのは小学1〜4年生ですが、行事では学年をまたぐことが多いので、ここは事前に整理しておくと当日が楽になります。
| 学年 | 当日に必要になること | この学年で起きやすいこと |
|---|---|---|
| 低学年(1〜2年) | 手順を一度に一つずつ伝える。文字入力が必要な工程は、大人が代わりに行うか、紙に書いてもらう。 | 説明を最後まで聞く前に手が出ます。それ自体は悪いことではないので、触りながら聞ける形にしておきます。 |
| 中学年(3〜4年) | 自分で操作を完結できる学年です。役割を分けて、互いに教え合う形にすると進みが速くなります。 | うまくできた子とできない子の差が見えやすくなります。完成を競わせない進行にしておくと安全です。 |
| 高学年(5〜6年) | なぜそうなるのかの説明を入れると、急に食いつきが変わります。仕組みの話をしていい学年です。 | 失敗を人前で見せたがらなくなります。やり直せることを最初に伝えておくと手が動きます。 |
| 中学生 | 時間を渡して任せる形が成立します。運営の一部を手伝ってもらうこともできます。 | 「子ども向け」に見えると一気に冷めます。扱いを一段上げるだけで反応が変わります。 |

行事のあとに、何が残るか
行事は一日で終わります。そのこと自体は、私たちも割り切っています。一日でできることには限りがあり、その場で何かが身につくわけではありません。
それでも行事に意味があるとすれば、「こういうものが世の中にある」と知る入口になることだと考えています。私たちが活動している理由も、そこにあります。地域にITで活躍する大人が少ないと、子どもはその道を進路として思いつきません。手本がいない状態そのものを埋めたい、というのが出発点です。
だから行事のあと、先生方にお願いしていることがひとつだけあります。続きをやりたいと言った子の名前を覚えておいてくださいということです。そこから先は学校の中でしか拾えません。私たちは一日しか居られませんが、学校はその子の一年を見ています。
予算と決裁の順番
費用の相談は、内容が決まってからでは遅いことがあります。学校の会計年度の都合上、金額の枠が先に決まっている場合が多いためです。可能であれば、次の順番で進めるとやり直しが減ります。
- 使える予算の枠を先に確認する。PTA予算、学校配当予算、外部の助成のどれを使うかで、手続きの重さが変わります。
- 枠を伝えたうえで相談する。金額を伏せて相談すると、双方が想定していない提案になり、結局やり直しになります。
- 決裁に必要な書類の形式を先に聞いておく。見積書の宛名や項目の書き方が決まっている場合があります。あとから直すより、最初に合わせるほうが早いです。
当日、先生方にお願いしていること
外部から入る側として、当日いちばん助かることを3つ挙げます。どれも準備が要るものではありません。
- 時間が押したときに、何を削るかを決めておいてください。私たちは学校の進行を把握していないので、その判断ができません。削る順番が決まっていれば、その場で調整できます。
- 手が止まっている子に、先に気づいてください。私たちは初対面なので、その子がいつもどうなのかが分かりません。声をかけるべきかどうかは、先生のほうが正確に判断できます。
- 終わったあとの一言を、先生から言ってください。外部の人間が締めるより、いつもの先生がその場の意味づけをしたほうが、子どもに残ります。
やらなくていいこと
行事の準備は、ただでさえ先生方の負担が大きいものです。省けるものを挙げておきます。
- 事前学習をつくり込むこと。体験の前に知識を入れておく必要はありません。むしろ、触ってから疑問が出るほうが記憶に残ります。
- 子ども全員に同じ成果物を持たせること。全員分を揃えようとすると、時間も費用も跳ね上がります。持ち帰れる子と、見る側に回る子がいても構いません。
- 体験の数を増やすこと。数より、ひとつの体験が落ち着いて回ることのほうが効きます。
- 振り返りシートを新しくつくること。すでに行事で使っている様式があれば、それで十分です。
よくある質問
Q. 45分しか取れませんが、それでも実施できますか。
A. 実施できます。ただし、一人ずつ作品を完成させる形は入りません。全員が短時間ずつ触る形か、代表の操作を全体で見る形になります。どちらにするかは、学年と人数で決めます。
Q. 学校のネットワークが使えるか分かりません。
A. 通信を使わない体験を選べば問題ありません。機材と端末を直接つないで動かす形の体験は、ネットワークに依存しません。事前の相談時に、通信の有無を条件として伝えてください。
Q. 子どもの写真はどう扱われますか。
A. 学校の方針に合わせます。撮影の可否、掲載の範囲は事前に確認し、許諾が取れていないものは使用しません。保護者への案内文に、その旨を書いていただけると当日の確認が楽になります。
Q. 小規模校でも来てもらえますか。
A. 伺えます。人数が少ない場合は、一人あたりの時間を長く取れるため、むしろ深い体験になります。移動の条件によってはオンラインでの実施をご提案することもあります。
Q. どのくらい前に相談すればいいですか。
A. 日程が仮でも構わないので、会場と時間枠が見えた段階でご相談ください。機材の台数を確保する都合上、早いほど選択肢が広がります。
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