
企業の担当者の方と子ども向けイベントの話をしていると、途中で必ずこの質問が出ます。「これは採用にどうつながりますか」。当然の問いだと思います。社内で予算を通すには、何かにつながっていることを説明しなければなりません。
ただ、私たちの答えは毎回同じで、「小学生に会っても、採用にはつながりません」です。中心は小学1〜4年生です。この子たちが就職活動をするのは10年以上先で、そのとき御社が同じ事業をしている保証もありません。
それでも、企業に関わっていただく価値はあると考えています。この記事では、採用広報という説明を外したときに、企業側に何が残るのかを、実際に一緒にやってきた範囲で書きます。教育CSRの一般論ではなく、当日に何が起きたかの話です。
この記事の要点
- 子ども向けの教育支援を採用広報として設計すると、効果測定ができず、社内で続きません
- 実際に残っていたのは、社員側の変化と、地域での実績の蓄積、それに事業の言語化でした
- 関わり方は「お金を出す」だけではありません。人・場所・機材・技術の4種類があります
- うまくいかなかった型も書きました。単発の協賛だけで終わる形が、いちばん残りません
「採用につながります」と説明したときに起きること
教育支援を採用広報の枠で社内提案すると、通りやすくなります。人事の予算が使えますし、目的がはっきりしているように見えるからです。ただ、そのあとに問題が起きます。
採用広報として立てた以上、次の年に「で、何人採れたのか」と聞かれます。答えられません。小学生に会った回数と、数年後の応募者数の間に、説明できる線は引けないからです。そこで数字が出せないと、その施策は翌年の予算から落ちます。目的の立て方が、その施策の寿命を決めてしまうという構造です。
よくある終わり方
1年目:話題性があり、社内報にも載る。2年目:担当者が異動し、引き継ぎが「去年と同じ内容で」になる。3年目:効果が説明できず、予算が削られて終了。私たちも自治体側の事業でこの流れを見てきました。悪意のある人は一人も出てきません。目的の設定だけが問題です。
では、企業側に実際に何が残っていたのか
採用の話を外したうえで、私たちが実際に見てきた「残ったもの」を3つ挙げます。どれも当日その場では地味です。
社員が自分の仕事を説明できるようになる
小学生に伝えるには、専門用語を全部外す必要があります。外した状態で自分の仕事を説明しきれるかは、けっこう難しい。これができた社員の方は、その後の顧客説明も変わったと聞いています。
地域での「顔が見える」実績が積み上がる
自治体や地域団体との連携は、実績がないところから始めるのが難しい。子ども向けの場は入口として通りやすく、一度やると次の相談が来ます。
若手社員の役割が一つ増える
当日の運営は、社歴の浅い方に任せやすい仕事です。自分の判断で動く場面が多く、社内の通常業務では出てこない振る舞いが見えます。
3つとも、採用の指標には乗りません。ただ、社内で説明するときは、この3つのほうが翌年も測れます。特に1つ目は、当日の様子を録画しておけば、そのまま研修の素材になります。
採用に効くかどうかではなく、来年も同じ説明ができるかどうかで目的を選ぶ。
関わり方は「協賛金」だけではない
企業からのお声がけで多いのは金銭的な協賛ですが、私たちが実際に助かった形は他にもあります。整理するとこうなります。
| 関わり方 | 企業側の負担 | 子ども側に起きること | 社内で説明しやすいか |
|---|---|---|---|
| 協賛金を出す | 予算のみ。当日の稼働は不要 | 直接の接点は生まれない | 通しやすいが、翌年の説明が難しい |
| 社員が現場に立つ | 当日1〜2名の稼働と事前打ち合わせ | 働いている大人と話す時間ができる | 社員側の変化として説明できる |
| 場所を貸す | 会場と当日の管理。設備は最小限で足ります | 日常の延長にある場所で体験できる | 既存資産の活用として通しやすい |
| 機材・技術を出す | 機材の貸出と、扱える人の同行 | 本物の道具に触れる。ここが一番効きます | 事業との関連を説明しやすい |
いちばん効くのは4番目です。子どもにとって、業務で実際に使われている道具かどうかは、はっきり伝わります。ただしこの形は、扱える人が同行できることが条件になります。機材だけ届いても動かせません。

実績と規模感について
ご検討の材料として、私たちがどの程度の規模でやってきたかを書いておきます。愛知の本願寺名古屋別院で開催したフェスでは、想定を超える来場があり、体験ブースには常に待ち列ができている状態でした。愛媛で実施したえひめDXキッズフェスタでは、定員40名に対して135名のお申し込みをいただいています(2025年8月13日時点)。
数字だけを見ると集客に成功したように読めますが、実際には待ち時間の設計を外していて、そこは反省点として残っています。数百人規模になると、体験の質より動線のほうが先に効いてきます。
現場から
企業の方に現場に立っていただいた回で、いちばん子どもが集まったのは、機材の前ではなく「その機械を仕事で使っている人」の前でした。説明が上手だったからではありません。うまく動かない場面で、その人が慌てずに原因を探し始めたところに、子どもが寄ってきました。
うまくいかなかった型
正直に、うまくいかなかったパターンも書きます。
- ロゴ掲出だけの協賛。翌年の継続判断の材料が何も残らず、担当者が代わった時点で切れます
- 当日だけ社員が来て、事前打ち合わせがなかった回。何を話していいか分からないまま立っていただくことになり、申し訳ないことをしました
- 企業側の商品説明が中心になった回。子どもの集中が明確に落ちます。子どもは宣伝を敏感に見分けます
- 成果を数字で先に約束してしまった案件。来場者数は読めますが、その後の行動変化は読めません。約束できないことは約束しないほうが、結果的に続きます
社内で通すときの組み立て
実際に社内提案をされる場合の順番です。私たちが一緒に資料を作らせていただくときも、この順で整理しています。
- 目的を採用以外に置く社員の言語化、地域連携の実績、若手の役割づくり。このいずれかに置くと、翌年も同じ指標で測れます。
- 関わり方を4つから選ぶお金・人・場所・機材。自社の負担が現実的に続く形を選びます。無理をした形は2年目で止まります。
- 当日の記録の取り方を先に決める写真、社員の振り返り、来場者の声。終わってから集めようとすると、まず集まりません。
- 単年度で完結しない設計にする翌年に何を引き継ぐかを、1年目の企画書に書いておきます。担当者が代わることを前提にします。
- 自治体・地域団体を早めに入れる後から入れるより、企画段階から入っていただくほうが、次の年の受け皿になります。
写真について
3番目に関して、注意点があります。子どもの顔が写る写真は、掲載許諾の扱いが必要です。私たち自身、許諾が確認できた写真だけを使う運用にしていて、確認できていないカットは公開資料に使いません。社内報や広報での利用を想定される場合は、この点を企画段階で決めておいてください。
費用の考え方
費用は実施形態によって大きく変わるため、この記事では一律の金額を書きません。ただ、考え方の枠だけ整理しておきます。
| 費目 | 変動の大きさ | 先に決めておくと安いこと |
|---|---|---|
| 機材の輸送・設営 | 大きい。距離と点数で変わります | 会場までの搬入経路と、当日使える時間 |
| 運営スタッフ | 大きい。来場想定と動線で決まります | 同時に体験させる人数の上限 |
| 会場費 | ゼロにできる場合があります | 企業や地域施設の既存スペースを使えるか |
| 広報・告知 | 中程度。地域メディアの協力で変わります | 誰に届けたいかの範囲 |
| 保険 | 小さいが必須 | 実施内容と対象年齢 |
いちばん効くのは2番目です。同時に何人に体験させるかを先に決めると、必要な人数が決まり、機材の点数も決まります。逆にここが決まらないまま進むと、当日に足りないものが出ます。
自治体が入ると、何が変わるか
企業単独でやる形と、自治体や地域団体が入る形では、性質がかなり変わります。どちらが良いという話ではなく、目的で選ぶものだと考えています。
自治体が入ると、まず告知の通り方が変わります。学校を通じた案内が可能になる場合があり、これは企業単独の広報とは届き方が違います。一方で、企画の自由度は下がります。年度の区切り、公平性の担保、記録の残し方など、確認事項が増えるためです。決めるまでに時間もかかります。
私たちが見てきた範囲では、1年目は企業単独で小さく試し、内容が固まってから自治体に持ち込む順番のほうが、話が早く進みました。何もない状態で連携の相談をすると、双方が抽象論から始めることになります。実施した記録が1回分あるだけで、会話の具体度がまったく違ってきます。
当日、企業の方におねがいしていること
現場に立っていただく場合、事前にお伝えしていることが3つあります。どれも簡単なことですが、これがあるかないかで当日の空気が変わります。
- 自社の商品やサービスの説明から入らないこと。子どもは宣伝を敏感に見分けるので、そこから入ると集中が落ちます
- できないことは「できない」と言っていただくこと。うまく動かない場面で原因を探し始める姿が、いちばん子どもに効きます
- 正解を先に言わないこと。手が止まっている子には、答えではなく「いまどこまでやった?」と聞いていただくようにお願いしています
3つ目は難しいところで、良かれと思って手伝ってしまう場面がどうしても出ます。私たちも当日の朝に必ず全員で確認しています。
私たちが企業と一緒にやっていること
デジタルキッズクラブは、lanitech合同会社が運営しています。教室は持たず、イベント(フェス)と、学校・施設への出張、オンラインのワークショップという形で活動していて、愛媛・東京・千葉・愛知で開催してきました。岐阜は現在ご提案中です。
企業や自治体の方と組む理由は、単純に、私たちだけでは足りないからです。地域にITで活躍する大人が少ないという課題に対して、私たちが用意できるのは機材と場の設計までで、その先の「働いている大人の顔」は、その地域の企業にしか出せません。アクセンチュア、ユカイ工学、システナ、さくら印刷、大ナゴヤツアーズ、本願寺名古屋別院、今治市、愛媛県、愛媛県文化振興財団、ミライトラボといった皆さまと、それぞれ違う関わり方で一緒にやってきました。
お金・人・場所・機材のどれが出しやすいかを先に伺います。ここが合わないまま企画を作ると、途中で止まります。
翌年も測れる目的に置き換えます。ここを詰めておくと、担当者が代わっても残ります。
来場者数だけでなく、社員側の振り返りも集めます。これが翌年の資料になります。
体験メニューの内容と、当日どう回るかは レーザー彫刻 や AR制作体験 のページで、進行に沿って公開しています。協賛の枠組みと金額の目安は パートナーのページ にまとめてあります。

私たちも答えを持っていません
最後に、立場をはっきりさせておきます。AI時代の子どもの学びについて、答えを持っている人はいないと考えています。私たちも持っていませんし、持っているふりをする気もありません。
そのうえで賭けているのは2つです。ひとつは、AIが代替できない一次情報――自分で見た、触った、うまくいかなかったという経験――の価値が上がること。もうひとつは、AIに使われる人間ではなく、使う人間になる練習が要ること。企業の方に現場に立っていただきたいのも、この2つ目に関わります。仕事で道具を使いこなしている人の姿は、子どもにとって最も具体的な一次情報です。
よくある質問
Q. 子ども向けの教育支援は、採用広報として効果がありますか。
A. 私たちが関わっている対象は主に小学1〜4年生で、採用への直接的な効果は説明できません。採用広報として社内で目的を立てると、翌年に効果を問われた時点で説明が行き詰まり、施策自体が続かなくなる例を見てきました。社員の言語化、地域連携の実績、若手の役割づくりのいずれかに目的を置くことをおすすめしています。
Q. 協賛金以外の関わり方はありますか。
A. あります。社員が現場に立つ、場所を貸す、機材や技術を出す、の3つです。子どもへの効果がいちばん大きいのは機材・技術ですが、扱える方の同行が条件になります。機材だけをお借りしても、当日動かせません。
Q. 費用はどのくらいかかりますか。
A. 実施形態、規模、会場、機材の点数で大きく変わるため、一律の金額はお出ししていません。費用がいちばん動くのは運営スタッフの人数で、これは同時に体験させる人数の上限をどこに置くかで決まります。まずその点をご相談ください。
Q. 自社の施設を会場にできますか。
A. できます。必要なのは電源、机、子どもの動線が取れる広さ、そして屋内であることです。特別な設備は要りません。商業施設やお寺など、すでに人が来ている場所で開催すると、告知の負担がその分小さくなります。
Q. 単年度の予算しか確保できません。
A. 単年度でも実施できます。ただ、1年目の企画書の段階で「翌年に何を引き継ぐか」を書いておくことをおすすめしています。担当者の異動を前提にしておかないと、内容が残っていても引き継がれずに終わることが多いためです。
協賛・自治体連携のご相談を承っています
協賛の枠組みと金額の目安、これまでの連携先と実施形態をパートナーページにまとめています。企画がまだ固まっていない段階でも構いません。
すでにご検討中の方は こちらから直接ご相談ください。