
子ども向けの事業を単年度予算で立ち上げたものの、翌年度の継続が見えない。担当が替わったら終わってしまう。自治体や企業のご担当者から、この形の相談をよくいただきます。
結論を先に書きます。単年度予算そのものは変えられません。変えられるのは、翌年度に「ゼロから説明し直す」状態にしないことだけです。そしてこれは、事業を始める時点でしか仕込めません。
私たちは学校や自治体、企業から依頼を受けて子ども向けのデジタル体験を運営している団体です。継続できた地域とできなかった地域の両方を経験しています。何が効いたのかを、失敗した側も含めて書きます。
この記事の要点
- 翌年度に切れる理由は成果の有無ではなく、経緯・材料・費用構造の3つ
- 1年目に仕込むのは記録・担い手・場所。あとから足すと比較対象がない
- 費用の最大項目は機材費ではなく人件費。地域側の担い手が増えるほど2年目は安くなる
- 常設施設は継続の答えにならない。私たちは1日0〜7組で畳んでいる
翌年度に切れるのは、成果が出なかったからではない
ここが最初の誤解です。1回目がうまくいっても、翌年度に切れます。私たちが見てきた範囲では、切れる理由は成果の有無ではなく、次の3つでした。
3つとも、1年目の設計で決まっています。翌年度になってから手を打とうとしても、材料がありません。
1年目に仕込む3つ
逆に言えば、1年目にこの3つを入れておけば、翌年度の説明はかなり楽になります。
| 仕込むもの | やること | 翌年度に効くこと |
|---|---|---|
| 記録 | 来場者数だけでなく、参加した子と保護者の変化を聞き取る | 「続ける理由」を数字で書ける |
| 担い手 | 地域の企業・学生・団体を運営側に入れる | 2年目の外注費が下がる。当事者が増える |
| 場所 | 単発で会場を借りず、すでに人が集まる場所と組む | 翌年も同じ場所で開ける。交渉が1年目で済んでいる |
いちばん抜けやすいのが1つ目です。当日は運営で手一杯になり、アンケートは後回しになります。けれど翌年度の予算要求で必要になるのは、まさにそこで取り損ねた情報です。

何を記録すると、翌年度に使えるのか
正直に書きます。私たち自身、ここはまだ十分にできていません。来場者数と体験実施数は記録していますが、参加した子がその後どうなったかを追う仕組みは、いま作っている最中です。
その前提で、設計として置こうとしている段を書きます。
| 段 | 指標 | 取り方 |
|---|---|---|
| 認知 | 来場者数、体験実施数 | 当日カウント |
| 変化 | 「またやりたい」「家でも作りたい」と答えた子の割合 | 当日アンケート(子ども向け・記号回答) |
| 変化 | 保護者の進路認識の変化(ITの仕事を身近に感じたか) | 当日アンケート(保護者向け) |
| 継続 | 次回への再参加率 | 事前登録リストとの突合 |
| 到達 | 参加後に自分で何かを作った/続けた子の数 | 数か月後のフォローアンケート |
大事なのは項目そのものより、最初から計測込みで設計するのがいちばん安く済むという点です。
後から足すと、比較対象がない状態から始めることになります。1年目の「変化」の数字が無いと、2年目に何と比べればいいのかが分かりません。
実額を1件、公開します
費用感が分からないという相談が多いので、私たちが実際に組んだ一日の概算を出します。2026年1月・本願寺名古屋別院での開催です。
| 項目 | 実績 |
|---|---|
| 来場 | 約415名(子ども177名・大人238名) |
| 運営体制 | 34名 |
| 費用(概算) | 約73万円 |
| 参加費 | 子ども1名 事前1,500円/当日2,000円(大人は1名まで無料・追加500円) |
この数字の読み方
約73万円のうち、大きいのは機材費ではありません。体験の数だけ人が要るため、費用の構造は人件費で決まります。逆に言えば、地域側で運営に入れる人が増えるほど、同じ規模を安く再現できます。稟議に貼るときは、総額より「来場1名あたり」と「2年目に下げられる部分」を併記したほうが通りやすくなります。
担い手を増やすと、翌年の費用が下がる
2つ目の仕込みです。上の内訳のとおり、費用の内訳で最大になるのは機材費ではなく人件費です。当日は、体験の数だけ人が要ります。
つまり、地域側で運営に入れる人が増えるほど、翌年の外注費は下がります。ここは説明の材料としても効きます。「1年目より安くできる見込みがある」と書ける事業は、継続の議論に乗せやすい。
私たちは学生スタッフの協力を得て運営してきました。地域の高校生や大学生が運営側に入る形は、この点で有効だと考えています。子どもにとっても、少しだけ年上の人が機材を扱っている姿は、遠い大人より効きます。
うまくいかなかったこと
継続の形を1つ外しています。
2023年11月、今治の商業施設のなかに、無料で入れる常設の拠点を開きました。ドローン、3Dプリンター、電子楽器、3Dペンを常時置き、週4〜5日開けていました。「常設なら継続していることになる」と考えていました。
結果は、来館が1日あたり0〜7組で張り付き、2024年5月末で営業を終えています。
ここから学んだこと
継続とは「開き続けること」ではありませんでした。いつでも行ける場所は、今日行く理由になりません。それよりも「その日しかない」一日を、年に何回か確実に開けるほうが、人は動きますし、地域の記憶にも残ります。
自治体のご相談でも、継続の話が常設施設の整備に向かうことがあります。私たちの経験から言えば、先に一日をつくって記録を残したほうが、結果的に長く続きます。
よくある誤解:機材を買えば資産として残る
もうひとつ、単年度予算の使い道としてよく出るのが「まず機材を購入して公共施設に置く」という案です。備品として残るので、予算の説明もしやすい。
ただ、ここは失敗しやすいところです。3Dプリンターを1台置いても、それだけでは何も起きません。隣について「次はここを押すよ」と言う大人がいて、はじめて子どもの手が動きます。そして機材は、使われないと確実に劣化します。
もし機材を持つなら、同時に「誰が使えるようにするか」を設計に入れてください。それが無いまま機材だけが残ると、翌年に動かせるのは結局また外部の事業者ということになります。
担当が替わっても残る引き継ぎの形
最後に、いちばん地味で、いちばん効くものを書きます。引き継ぎ資料に「なぜやったか」を1ページ入れておくことです。
この3点があるだけで、翌年度の担当者は「続けるかどうか」から議論を始められます。無いと、まず「これは何の事業だったのか」から始まります。そこで1年が終わります。
1年目にやらなくていいこと
限られた予算で最初の一日を組むとき、削っても成立するものと、削ると崩れるものがあります。ここを取り違えると、費用だけかかって記録が残らない事業になります。
| 項目 | 1年目の判断 | 理由 |
|---|---|---|
| 体験の種類を増やす | 削っていい | 満足度は種類の数ではなく、1つあたりに触れた時間で決まります |
| 大人向けの併催プログラム | 削っていい | 子どもが夢中になっている時間に、大人だけを座らせる設計は成立しませんでした |
| 凝った会場装飾 | 削っていい | 必要な設備は電源・机・動線・屋内の4つで足ります |
| 当日のアンケート | 削らない | 翌年度の予算要求で使う材料が、ここでしか手に入りません |
| 運営に入る地域側の人 | 削らない | 2年目の費用が下がるかどうかが、ここで決まります |
削っていい欄は、当日の見映えに効くものです。削らない欄は、翌年度に効くものです。単年度予算の事業でいちばん起きやすいのは、この順番が逆になることです。
財源を1本に頼らない
もうひとつ、構造の話です。財源が1本だと、その1本が翌年度に無くなった時点で事業も終わります。私たちが見てきた続いている事業は、最初から2本以上で組まれていました。
組み合わせ方は地域によりますが、考え方はいつも同じです。「お金」「場所」「人」を別々の相手からもらうと、どれか一つが抜けても事業の形が残ります。企業に協賛をお願いし、場所は商業施設や公共施設をお借りし、運営は地域の学生に入っていただく。この形なら、翌年に協賛企業が替わっても、場所と人はそのまま使えます。
なお、補助金や交付金のメニューは自治体ごとに名称も要件も違います。使えるかどうかは必ず所管の窓口でご確認ください。私たちからは、申請時に「2年目に費用が下がる見込み」を書き添えると通りやすい、という実務上の感触だけをお伝えしています。
向かないケース
継続を前提にしないほうがいい場合もあります。
- その年度に単発で成立させることが目的の場合。周年記念や特定の助成に紐づく事業なら、無理に継続の形を作らず、記録だけ残すほうが健全です
- 地域側に担い手の候補がまったくいない場合。2年目以降も外部に全部任せる前提なら、費用は下がりません。それでもやる意味はありますが、継続の説明は難しくなります
- 成果指標を決められない場合。何をもって続けるかが決まっていない事業は、担当が替わった時点で止まります
私たちができること
デジタルキッズクラブは、子どもが「使う側」ではなく「創る側」に立つ日をつくっている団体です。運営は lanitech合同会社。決まった場所を持たず、地域の場所を借りて開催しています。愛媛・東京・千葉・愛知で開催してきました。
活動の目的は一つで、地域の子どもが、エンジニアやIT・AIの仕事を進路として選べるようにすることです。地域にそういう大人が少なければ、子どもはその職業を選択肢に入れません。だからこそ、1回で終わらせない形にしたいと考えています。
予算が大きくなくても始められます。場所を使わせていただける、後援名義をいただける、地域の団体や学校との窓口になっていただける。このどれか一つからでも、地域での開催は形になります。規模も数百人である必要はなく、出張ワークショップのように機材ごと伺う小さな形から始められます。移動費のかからないオンラインという選択肢もあります。
連携の具体的なモデルは協賛・自治体連携のページにまとめています。
よくある質問
Q. 単年度予算でも継続的な事業にできますか?
予算の仕組み自体は変えられませんが、翌年度に「ゼロから説明し直す」状態を避けることはできます。1年目に記録・担い手・場所の3点を仕込んでおくと、翌年度の要求で使える材料が残ります。
Q. 来場者数以外に、何を記録すればよいですか?
「またやりたい」と答えた子の割合、保護者の進路認識の変化、次回への再参加率、参加後に自分で作った子の数。この4つを段として設計します。最初から計測込みで組むのがいちばん安く済みます。
Q. 2年目の費用を下げる方法はありますか?
地域の企業・学生・団体に運営側へ入っていただくことです。費用の内訳で最大になるのは機材費ではなく人件費なので、地域側の担い手が増えるほど外注費は下がります。
Q. 機材を購入して施設に置くのはどうですか?
機材だけでは何も起きません。隣について声をかける大人がいて、はじめて子どもの手が動きます。使われない機材は劣化します。持つなら「誰が使えるようにするか」を同時に設計してください。
Q. 予算が小さくても相談できますか?
できます。場所を使わせていただける、後援名義をいただける、地域の団体や学校との窓口になっていただける。このどれか一つからでも開催は形になります。金額の話はそのあとで構いません。
協賛・自治体連携のご相談を承っています
場所・後援名義・窓口。このどれか一つからでも始められます。補助額別のモデルと協賛メニューをまとめています。
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