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「わからない」と言える教室が、いちばん速く進む|4つの差

「わからない」と言える教室が、いちばん速く進む|4つの差

外部の講師として教室に入ると、最初の10分でだいたい分かることがあります。その学級で「わからない」と言えるかどうかです。言える学級は、そのあとの45分で進む距離が明らかに長い。静かで整っている学級のほうが進まないことも、珍しくありません。何がその差を作っているのかを、外から見える範囲で書きます。

この記事の要点

  • 差が出るのは発言量ではなく、手が止まったあとの数十秒です。止まったまま固まるか、隣を見るか、声が出るかで先が変わります。
  • 決定的なのは、最初に「わからない」と言った子に何が起きたかです。この1回で、その日の残り時間の空気が決まります。
  • いちばん効くのは、先生自身がうまくいかない場面を見せることでした。言葉で促すより速いという印象があります。
  • うまくいかなかったのは、全員に発言を求めた回です。言える空気をつくるつもりが、言えない子の居場所を狭めました。

この記事は、学校や施設に呼ばれてデジタル体験の授業を行っている立場から書いています。学級経営の専門家ではありませんし、担任として1年を持った経験もありません。ただ、初めて入る教室を短い時間で何度も見ているので、比べる材料だけは持っています。外の人間から見えている範囲の話として読んでください。

デジタルキッズクラブの横断幕が掲げられた会場
外から入る立場だからこそ、学級ごとの空気の差がそのまま比較できてしまいます。

差が出るのは、発言量ではない

よく手が挙がる学級が進むわけではありません。挙手が多くても、進まない教室はあります。挙手は、答えが分かっている子が出すものだからです。

見ているのは、手が止まってからの数十秒に何が起きるかです。ここには3パターンしかありません。止まったまま画面を見続ける、隣の子の手元を見る、声が出る。この3つのうちどれが標準になっているかで、その学級の進む速さが決まります。

差1:最初の1人に何が起きたか

1コマの授業の中で、最初に「これ、わかりません」と言う子が必ず出ます。だいたい開始から7分前後です。この1回への反応が、その日の残りを決めます。

その子に対して周りが何も起きない学級では、2人目、3人目が続きます。逆に、笑いが起きたり、先生が「さっき説明したよね」と返したりすると、そこで止まります。2人目は出ません。1人目の扱いが、その教室の値段表になるということだと思っています。

外部講師として気をつけていること

最初の1人が出たら、答える前にまず「それ、聞いてくれて助かります」と言うようにしています。内容に答えるのはそのあとです。順番を逆にすると、質問の良し悪しを評価しているように聞こえてしまいます。

差2:うまくいかない状態が見えているか

全員の画面が手元で閉じている教室では、自分だけができていないように見えます。実際には半分の子が同じところで詰まっていても、それが誰にも見えません。

途中の状態を見せ合う仕掛けがあるだけで、これは変わります。作品を1か所に集める、途中でも画面を前に映す、席を立って見て回る時間を取る。どれでも構いませんが、詰まっているのが自分だけではないと分かる仕掛けが必要です。

差3:先生自身が「わからない」と言うか

いちばん効いたのは、これでした。教員の方が「先生もこれ初めてなんだよね」と言った学級では、そのあとの質問量が明らかに増えます。

デジタルの道具を使う授業では、これがやりやすいという利点があります。教える側も初めて触る機材であることが普通にあるからです。知らないことを隠さないでいられる教科が、たまたまここにあるという言い方もできます。

「わからない」と言える教室をつくる最短の方法は、大人が先に言うことだった。

差4:正解が1つだと予告されていないか

作業の前に「こうなったら完成です」と完成形を1つ示すと、それ以外は失敗になります。失敗になると、言い出しにくくなります。

完成形を複数示すか、あるいは示さないか。どちらでも効果はありますが、複数示すほうが授業としては安定します。3つくらい並べて「どれでもいい」と言うだけで、途中で違う方向に行った子が自分から報告してくれるようになります。

2つの教室を並べてみる

同じ内容を同じ時間でやっても、何が違ってくるかを表にしました。実際に同じ日に続けて2学級に入ったときの印象をもとにしています。

場面 言えない教室 言える教室
開始7分後 手が止まった子が、止まったまま画面を見続ける。 誰かが声を出す。または隣を見にいく。
質問の形 「合ってますか」と確認を求める形が多い。 「ここどうなってるんですか」と対象が絞られている。
中盤 できた子とできない子に分かれ、差が固定される。 できた子が勝手に教えにいくので、差が縮む。
終盤の成果物 似たものが並ぶ。完成度は高い。 ばらつく。未完成のものも混ざる。
振り返り 「楽しかった」で止まる。 うまくいかなかった箇所を具体的に言える。

成果物だけを比べると、言えない教室のほうが見栄えがよくなることがあります。ここが判断を誤らせるところで、展示物で評価すると逆の結論になりかねません。

1コマの中でできる手当て

学級の空気は1年かけて作られるものなので、外から来た人間が45分で変えられるとは思っていません。それでも、その1コマの中だけなら効くことがあります。

  1. 最初に失敗してみせるこちらが実演して、わざと失敗します。開始2分以内が効果的です。この教室では失敗が起きるものだ、という前提が共有されます。
  2. 全員に一度手を止めてもらう「いま詰まっている人」ではなく「いま詰まっていない人」を聞きます。聞き方を裏返すだけで、手を挙げる心理的な重さが変わります。
  3. 途中の画面を集める完成品ではなく、途中のものを共有します。完成していないものが並んでいる状態そのものが、合図になります。
  4. 最後にうまくいかなかったことを言ってもらう成果発表ではなく、詰まったところを共有します。これを最後に置くと、次の授業に持ち越せます。

効かない場面もある

CASE 1全員に発言を求める形順番に当てていくと、言える空気をつくるどころか、言葉にするのが苦手な子の逃げ場を消します。手を止める・見にいくといった、言葉以外の選択肢を残す必要があります。
CASE 2評価が同時に走っている場面その時間の様子が成績に反映されると子どもが知っている場合、何をしても本音は出ません。評価と切り離した時間であることを、先に明示する必要があります。
CASE 3学級の関係がこじれているとき特定の子が笑われる構造があるなら、授業設計では解けません。ここは外部の人間が触れる領域ではなく、先生方の時間の話だと考えています。

うまくいかなかったこと

現場から:発言を一巡させた回

全員に一言ずつ言ってもらう形を取ったことがあります。全員が参加する形にしたつもりでしたが、後ろの順番の子ほど、前の人と同じことを言うようになりました。安心して話せる場をつくるどころか、正解を探す時間になっていました。以後、全員に順番を回すのはやめています。

現場から:褒めすぎた回

手が挙がるたびに強く褒めていたら、途中から褒められるための発言が増えました。詰まったことを言う子は逆に減りました。今は、うまくいかなかった報告のほうに時間を割くようにしています。

学年で、言えなくなる時期がある

低学年の教室で「わからない」が出ないことは、まずありません。分からなければそのまま言いますし、隣の子の手元も普通にのぞきます。問題が起きるのはもう少し上の学年です。

境目は学校や学級によって違いますが、高学年に入るあたりから、分からないことを人に見られるのを避ける動きがはっきり出ます。中学生になると、聞くこと自体が立場の表明のようになってしまう場面もあります。このとき有効だったのは、言わせようとすることではなく、言わなくても済む逃げ道を増やすことでした。

高学年に効いた小さな工夫

全体に向かって聞くのをやめて、こちらから机を回る時間を明示的に取るようにしました。「いまから回るので、止まっている人はそのまま止まっていてください」と言うだけで、手を挙げるという行為を省けます。挙手を求めないことが、そのまま聞きやすさになる場面があります。

静かな教室が悪いわけではない

ここは誤解されやすいので書いておきます。声が出ていないこと自体は問題ではありません。黙ったまま自分で試し続けている子は、いちばん進んでいることがあります。

問題なのは、止まったまま何も起きない状態です。声を出すか、隣を見るか、自分で条件を変えるか。このどれかが起きていれば、静かでも構いません。見るべきは音量ではなく、止まったあとに動きがあるかどうかです。

私たちの授業での扱い方

私たちが持ち込んでいる体験は、どれも初回でうまくいかないように設計してあります。たとえばAR制作体験は、目印になる画像を決めて、その上に出したいものを置き、カメラをかざして確かめる、という流れです。かざしてみると、だいたい出ません。位置がずれているか、目印が使いにくい画像だったかのどちらかです。

この「出ない」が最初の数分で全員に起きるので、詰まっているのが自分だけではないという状態が自動的にできます。1コマ20〜30分、1回あたり6〜10名程度が目安で、端末はこちらで持ち込みます。Wi-Fi があると進行が安定しますが、無くても実施できる形にできます。

商業施設の会場で行われている体験ブースの遠景
会場でも同じことをしています。うまくいかない状態を全員に同時に起こすのが、いちばん確実な入口です。

私たちがこの活動をしているのは、地域にITで活躍する大人が少なく、子どもがその進路を身近に感じにくい状況があるからです。答えを教える場をつくりたいわけではありません。AI時代に何が正解かは誰も持っていませんし、私たちも持っていない。だからこそ、わからないと言える状態を先につくるところから始めています。

特別支援・少人数の場でどうなるか

放課後等デイサービスや特別支援の場に呼ばれることもあります。人数が少ないぶん、ここまで書いた差がもっとはっきり見えます。

少人数では、うまくいかない状態が全員に見えてしまうという利点と難しさが同時にあります。詰まっているのが自分だけだと分かりやすいので、詰まる箇所を全員でそろえる設計がより重要になります。こちらが最初に失敗してみせる手は、少人数のほうがよく効きました。

逆に効かなかったのは、途中の作品を見せ合う形です。人数が少ないと、誰の作品かがすぐ分かってしまうため、共有が比較になってしまいます。この場合は作品を並べず、こちらが口頭で「いま3人が同じところで止まっています」と状況だけ伝える形に変えています。

当日おねがいしていること

  • こちらが実演で失敗しても、フォローに入らず見ていただくこと
  • 詰まっている子に、先生が先に答えを渡さないこと
  • その時間を評価対象にしないと、子どもに先に伝えていただくこと
  • 途中の作品を見せ合う時間を、進行が押しても削らないこと
  • 終わったあとの振り返りで、うまくいかなかった話を拾っていただくこと

1年かけて変わる部分

ここから先は、外部の人間には見えない領域です。ただ、翌年に同じ学校へ呼ばれたとき、同じ学年でも明らかに空気が違うことがあります。授業の設計ではなく、その1年の積み重ねで変わっている部分です。

私たちにできるのは、その積み重ねの中に1日を差し込むことだけだと思っています。1コマで学級が変わることはありませんが、「この教室では、わからないと言ってもよかった」という日が1回あることの意味は、たぶん小さくありません。

1コマだけ依頼される場合

単発でも実施しています。その場合は空気をつくることを目標にせず、うまくいかない状態を全員が経験して帰る、というところまでを目標に組みます。そのほうが、先生方が翌週に拾いやすい材料が残ります。

Q. 「わからない」と言えない学級は、どこから手をつければいいですか。

A. 子どもに促すより、大人が先に言うほうが速いという印象があります。デジタルの道具は教える側も初めて触ることが多いので、その理由をつくりやすい教材です。

Q. 静かな学級は、うまくいっていないということですか。

A. いいえ。黙ったまま自分で試し続けている状態は、むしろ進んでいます。見るべきは音量ではなく、手が止まったあとに何か動きがあるかどうかです。

Q. 全員に発言させるのは効果がありますか。

A. 私たちの経験では逆効果でした。順番に当てると、後ろの子ほど前の人と同じことを言うようになります。言葉以外の選択肢を残したほうが、結果的に本音が出ます。

Q. 1コマだけの依頼でも受けてもらえますか。

A. 受けています。その場合は学級の空気を変えることを目標にせず、うまくいかない状態を全員が経験して帰る設計にしています。

Q. 機材やWi-Fiは必要ですか。

A. 端末はこちらで持ち込みます。Wi-Fi があると進行が安定しますが、内容によっては無くても実施できる形に組み替えられます。

この記事を書いた人

デジタルキッズクラブ(運営:lanitech合同会社)/西脇 靖紘

デジタルキッズクラブ 代表。愛媛・東京・千葉・愛知で、子どもがデジタルの道具に直接手を伸ばす一日一日をつくっています。これまでに延べ1,000名以上の子どもと保護者に体験を届けてきました。愛知淑徳大学ではAI関連科目の非常勤講師も務めており、日々AI×教育と向き合っています。これら記事の内容は、私たちの現場での運営や観察にもとづいています。

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