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将来の夢が決まらない子|職業名より先に見せたい3つの顔

将来の夢が決まらない子|職業名より先に見せたい3つの顔

「将来の夢は何?」と聞いて、子どもが黙ってしまう。学校のプリントに書く欄があるのに埋まらない。この状態を心配して調べていらっしゃるなら、先にひとつだけお伝えしておきたいことがあります。夢が出てこない原因は、多くの場合、子どもの意欲ではありません。材料が足りていないだけです。

職業を選ぶという行為は、頭の中にある選択肢から選ぶ作業です。ところが子どもの頭の中にある職業は、実際に見たことのある大人の数までしか増えません。この記事では、職業の名前を並べる前にできることを3つ挙げ、そのあとで、なぜ名前から入るとうまくいかないのかを書きます。

職業名より先に見せられる、3つの顔

1. 親自身の仕事を、肩書きではなく一日で話す

「会社員」「事務」と言っても、子どもには何も像が結びません。かわりに、今日一日で何をしたかを3つだけ挙げてみてください。誰かに電話した、資料の数字を直した、途中でトラブルが起きて謝った。この粒度になると、子どもは初めて「そういうことをする人がいる」と分かります。

楽しかったことだけを話す必要もありません。面倒だったことを混ぜたほうが、話は本物になります。仕事に面倒な部分があると知っている子のほうが、あとで進路を考えるときに現実的です。

2. 身近な大人に、なぜその仕事なのかを聞かせる

親戚でも、近所の店の人でも、習い事の先生でもかまいません。子どもの前で「どうしてその仕事に決めたんですか」と大人が聞く。この質問を、子どもではなく大人がするところが要点です。

返ってくる答えは、たいてい立派な志ではありません。なんとなく人に誘われた、たまたま近くにあった、最初は別の仕事をしていた。この「たいしたきっかけではなかった」という話が、子どもの肩の力を抜きます。夢は最初から決まっていなくていいと、説明ではなく実例で伝わります。

3. 仕事を「使っている道具」から見せる

職業名は抽象語ですが、道具は目に見えます。設計をする人が使うソフト、パン屋さんが使うオーブン、映像をつくる人が触っている編集画面。道具から入ると、子どもは「その道具を触ってみたい」という形で興味を持ちます。

この入り方の良いところは、興味が職業名に縛られないことです。3Dのソフトを触った子が、そのまま設計の仕事に行くとはかぎりません。ただ、画面の中で立体を組み立てる作業が面白いと分かっていれば、あとで名前のついた職業に出会ったときに、自分と結びつけられます。

なぜ「職業名から入る」とうまくいかないのか

職業名は、その仕事を知っている人にとっては便利な省略記号です。知らない人にとっては、ただの単語です。子どもに職業一覧を見せて選ばせるのは、行ったことのない国の地図を見せて住みたい街を選ばせるのに近いことをしています。

もうひとつ問題があります。職業名で聞かれると、子どもは「答えとして正しそうなもの」を探し始めます。大人が喜びそうな職業、テレビで見た職業。そうやって出てきた答えは、本人の興味と関係がないので、翌年には変わります。変わること自体は問題ではありませんが、毎年ゼロから聞き直すことになります。

「見た大人の数」で進路が決まってしまうこと

私たちがこの活動を始めた理由が、まさにここにあります。地域によっては、ITの仕事で働いている大人が身の回りにほとんどいません。すると、その仕事は子どもの選択肢の一覧に最初から載りません。向いているかどうか以前に、候補として存在していない状態です。

これは能力の差ではなく、接触の差です。同じ子でも、その仕事をしている大人に一度会っていれば、候補に入ります。体験格差が所得より距離で開いているというのは、こういう意味です。

年齢によって、効く見せ方が違います

時期 効きやすい入り方 避けたほうがいいこと
未就学〜小学校低学年 道具を触らせる。名前は後回し 職業を選ばせる質問
小学校中〜高学年 大人の一日の話、失敗談 向き不向きの決めつけ
中学生 仕事の成り立ちと収入の話 夢という言葉での要約
共通 本人が触った時間を増やす 毎年おなじ質問を繰り返す

低学年に「将来なりたい職業」を聞くのは、まだ早いことが多いです。逆に中学生には、きれいな話より、その仕事がどうやってお金になっているかを話したほうが届きます。

親がやりすぎてしまう、2つのこと

ひとつは、子どもが何かに興味を示した瞬間に、関連する職業名を教えてしまうことです。「それなら建築士だね」と言った時点で、子どもの興味は職業の枠に収まります。枠に入れるのは、本人が入れたくなったときで間に合います。

もうひとつは、興味を継続させようとすることです。一度好きだと言ったものを、次も好きでいてほしくなります。ただ、興味が移るのは正常な過程です。移った先に共通点があるかどうかだけ、親が覚えておけば十分です。

この考え方が向かないケース

正直に書いておきます。すべての場面でこの順番がいいわけではありません。

まず、進路の締切が近いときです。受験の願書や出願先の判断が目の前にある段階で、「まず道具から」と言っている余裕はありません。この時期は、決めるための情報を集めるほうが優先です。

次に、本人がすでに決めている場合です。決まっている子に選択肢を広げると、迷いだけが増えることがあります。広げるのではなく、その仕事の現実を具体的に知ってもらうほうが役に立ちます。

そしてもうひとつ、私たち自身が外している場面があります。一日の体験は「点」であって、「線」ではありません。かつて常設の場を運営していたときには、同じ子が週に何度も来て、興味が育っていく過程が見えました。いまの一日単位の形では、そこまでは拾えていません。一度の体験で進路が決まる、とは考えていません。

私たちが現場で見ている「決まり方」

デジタルキッズクラブは、愛媛・東京・千葉・愛知で、子どもがデジタルの道具に直接手を伸ばす一日をつくっています。数百人規模のイベントもあれば、学校や施設へ伺う出張のワークショップもあります。

そこでよく起きるのは、職業への興味ではなく、道具への興味です。3Dモデリングと3Dプリンターの体験のあとに「家でもやりたい」と言う子は毎回います。その子が将来どの仕事に就くかは分かりません。ただ、画面の中で形をつくる作業が自分に合っている、という一次情報は本人の中に残ります。

もうひとつ効いているのが、運営している大人の存在です。機材を直している人、当日うまくいかずに焦っている人。その姿を見た子が、あとから保護者に「あの人は何をしている人なの」と聞くことがあります。職業の説明より、その一言のほうが進路の話としては先に進んでいます。

私たちがやっているのは、答えを教えることではありません。手本になる大人が身近にいない状態を、一日だけでも埋めることです。

今日からできること

夢を聞くのを、いったんやめてみてください。かわりに、親自身の今日を3つ話す。身近な大人に、なぜその仕事なのかを子どもの前で聞く。興味を持った道具を、名前をつけずに触らせる。

この3つを続けていると、あるとき子どものほうから職業の名前が出てきます。そのとき初めて、その名前は本人のものになっています。

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この記事を書いた人

デジタルキッズクラブ(運営:lanitech合同会社)/西脇 靖紘

デジタルキッズクラブ 代表。愛媛・東京・千葉・愛知で、子どもがデジタルの道具に直接手を伸ばす一日一日をつくっています。これまでに延べ1,000名以上の子どもと保護者に体験を届けてきました。愛知淑徳大学ではAI関連科目の非常勤講師も務めており、日々AI×教育と向き合っています。これら記事の内容は、私たちの現場での運営や観察にもとづいています。

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